潜夫論 / 務本
夫用天之道,分地之利,六畜生於時,百物聚於野,此富國之本。遊業末事以收民利,此貧邦之原。忠信謹慎,此德義之基也。虛無譎詭,此亂道之根也。故力田所以富國也。今民去農桑,赴遊業,披采眾利,聚之一門,雖於私家有富,然公計愈貧矣。百工者,所使備器也。器以便事為善,以膠固為上。今工好造雕琢之器,巧偽飾之,以欺民取賄。物以任用為要,以堅牢為資。今商競鬻無用之貨,淫極侈之弊,以惑民取產,雖於淫商有得,然國計愈失矣。此三者,外雖有勤力富家之私名,然內有損民貧國之公實。故為政者明督工商,勿使淫偽;困辱遊業,勿使擅利;寬假本農而寵遂學士,則民富而國平矣。夫教訓者,所以遂道術而崇德義也。
新字:夫用天之道,分地之利,六畜生於時,百物聚於野,此富国之本。遊業末事以収民利,此貧邦之原。忠信謹慎,此徳義之基也。虚無譎詭,此乱道之根也。故力田所以富国也。今民去農桑,赴遊業,披采衆利,聚之一門,雖於私家有富,然公計愈貧矣。百工者,所使備器也。器以便事為善,以膠固為上。今工好造雕琢之器,巧偽飾之,以欺民取賄。物以任用為要,以堅牢為資。今商競鬻無用之貨,淫極侈之弊,以惑民取産,雖於淫商有得,然国計愈失矣。此三者,外雖有勤力富家之私名,然内有損民貧国之公実。故為政者明督工商,勿使淫偽;困辱遊業,勿使擅利;寛仮本農而寵遂学士,則民富而国平矣。夫教訓者,所以遂道術而崇徳義也。
書き下し
夫れ天の道を用い、地の利を分ち、六畜は時に生じ、百物は野に聚まる、此れ国を富ます本なり。遊業末事以て民利を収むるは、此れ邦を貧しくする原なり。忠信謹慎は、此れ徳義の基なり。虚無譎詭は、此れ乱道の根なり。故に力田は国を富ます所以なり。今民農桑を去り、遊業に赴き、披いて衆利を采り、之を一門に聚む、私家に於いて富む有りと雖も、然れども公計は愈いよ貧し。百工は、器を備えしむる所の者なり。器は事に便なるを以て善と為し、膠固なるを以て上と為す。今工は雕琢の器を造るを好み、巧偽もて之を飾り、以て民を欺き賄を取る。物は用に任ずるを以て要と為し、堅牢なるを以て資と為す。今商は競いて無用の貨を鬻ぎ、極侈の弊を淫にし、以て民を惑わし産を取る、淫商に於いて得有りと雖も、然れども国計は愈いよ失う。此の三者は、外は勤力して家を富ますの私名有りと雖も、内は民を損ない国を貧しくするの公実有り。故に政を為す者は明らかに工商を督し、淫偽せしむること勿れ。遊業を困辱し、利を擅にせしむること勿れ。本農を寛仮して学士を寵遂すれば、則ち民富みて国平らかなり。夫れ教訓は、道術を遂げて徳義を崇ぶ所以なり。
現代語訳
天の道に従い、地の利を分け、家畜は時に応じて育ち、さまざまな産物が野に集まる。これが国を豊かにする本です。遊びの仕事や末の事柄で民の利益を取るのは、国を貧しくする元です。忠信と慎みは徳義の基で、虚無や偽りは道を乱す根です。だから田を力めて耕すことが国を富ます手立てです。今、民は農業と養蚕を捨て、遊業に走り、利益を広く集めて一つの家に集めています。個人の家は豊かになっても、公の財政はますます貧しくなります。職人は器を備えさせる者です。器は仕事に便利なことを善とし、丈夫なことを上とします。ところが今の職人は彫刻や細工の器を作りたがり、巧みな偽りで飾って民を欺いて財を取ります。物は役に立つことが要であり、堅牢さが資質です。ところが今の商人は競って無用の品を売り、極端な贅沢の弊害を広め、民を惑わして財産を取っています。贅沢な商人には得があっても、国の計はますます損なわれます。この三者は、表向きは働いて家を富ませるという個人の名声があっても、内実は民を損ない国を貧しくするという公の害をもたらしています。ですから政をする者は職人と商人を明らかに監督して、贅沢や偽りをさせず、遊業を苦しめて利益を独り占めさせず、農を寛大に扱い学士を厚遇すれば、民は豊かになり国は安定します。教え導くことは、道術を究め徳義を尊ぶ手立てなのです。
解説
この章句が説くこと
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『潜夫論』務本凡そ人の大体を為すは、末を抑えて本を務むるより善きは莫く、本を離れて末を飾るより不善なるは莫し。夫れ国を為むる者は民を富ますを以て本と為し、学を正すを以て基と為す。民富みて乃ち教うべく、学正しくして乃ち義を得。民貧しければ則ち善に背き、学淫なれば則ち詐偽す。学に入れば則ち乱れず、義を得れば則ち忠孝なり。故に明君の法は、此の二者を務めて、以て太平の基を成し、休征の祥を致す。夫れ民を富ます者は農桑を以て本と為し、遊業を以て末と為す。百工は用を致すを以て本と為し、巧飾を以て末と為す。商賈は貨を通ずるを以て本と為し、奇を鬻ぐを以て末と為す。三者は本を守り末を離るれば、則ち民富む。本を離れ末を守れば、則ち民貧し。貧しければ則ち阨しみて善を忌み、富めば則ち楽しみて教うべし。教訓する者は道義を以て本と為し、巧弁を以て末と為す。辞語は信順を以て本と為し、詭麗を以て末と為す。列士は孝悌を以て本と為し、交遊を以て末と為す。孝悌は致養を以て本と為し、華観を以て末と為す。人臣は忠正を以て本と為し、媚愛を以て末と為す。五者は本を守り末を離るれば、則ち仁義興る。本を離れ末を守れば、則ち道徳崩る。本を慎み末を略するは猶お可なり、本を舎てて末を務むれば則ち悪し。
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呂氏春秋・上農①古、先聖王の其の民を導く所以の者は、先づ農を務む。民の農たるは徒に地の利の為のみに非ざるなり。其の志を貴ぶなり。民農たれば則ち樸たり。樸たれば則ち用い易し。用い易ければ則ち邊境安く、主位尊し。民農たれば則ち重し。重ければ則ち私義少なし。私義少なければ、則ち公法立ち、力專一なり。民農たれば則ち其の產復す。其の產復せば則ち徙ることを重り、徙ることを重れば則ち處に死して二慮無し。民、本を舎てて末を事とすれば則ち令せられず。令せられざれば則ち以て守る可からず、以て戰う可からず。民、本を舎てて末を事とすれば則ち其の產約す。其の產約すれば則ち輕々しく遷徙す。輕々しく遷徙すれば則ち國家患い有り。皆遠志有れば、居心有る無し。民、本を舎てて末を事とすれば則ち智を好む。智を好めば則ち詐り多く、詐り多ければ則ち法令に巧みにして、是を以て非と為し、非を以て是と為す。
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『潜夫論』務本夫れ本末消息の争いは、皆君に在り、下民の能く移す所に非ざるなり。夫れ民は固より君の好みに随い、利に従いて以て生くる者なり。故に君子曰く、財賄多からず、衣食贍らず、声色妙ならず、威勢行われざるは、君子の憂いに非ず。善を行うこと多からず、道を申ぶること明らかならず、節志立たず、徳義彰かならざるは、君子恥ず、と。是を以て賢人智士の子孫に於けるや、之を曆するに志を以てして厲むるに詐を以てせず、之を勧むるに正を以てして勧むるに詐を以てせず、之に示すに倹を以てして示すに奢を以てせず、之に貽すに言を以てして貽すに財を以てせず。是の故に董仲舒は終身家事を問わず、而して疏広は賜金を遺さず。子孫若し賢なれば、多く富むを待たず。若し其れ賢ならざれば、則ち多きは以て怨みを征く。故に曰く、徳無くして賄豊かなるは、禍の胎なり、と。昔曹羈に言有り、「天の聚を守るは、必ず其の徳義を施せ」と。徳義施さざれば、聚は必ず闕くる有り。今或いは家賑わいて之を貸し、貧窮に遺賑し、矜疾の苦を恤れめば、則ち必ず久しく富に居らず。易に曰く、「天道は盈つるを虧きて謙なるを衝す」と。故に仁以て義もて彼に費やす者は、天之を此に賞す。邪を以て前に取る者は、之を後に衰えしむ。是を以て盈を持するの道は、挹みて之を損せば、則ち亢龍の悔、乾坤の愆を免るるべからず。
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『潜夫論』務本是の故に本を務むれば則ち虚偽の人と雖も皆本に帰し、末に居れば則ち篤敬の人と雖も皆末に就く。且つ凍餒の在る所は、民去らざるを得ず。温飽の在る所は、民居らざるを得ざるなり。故に衰暗の世、本末の人は、未だ必ずしも賢不肖ならず、禍福の勢いの所、然る無きを得ざるのみ。故に明君の国に蒞むや、必ず本を崇び末を抑え、以て乱危の萌しを遏む。此れ誠に治の危うき漸、察せざるべからざるなり。
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