省諐録 / 第36条
士大夫。必有過人之膽量。方能奪戎狄之氣。而伸本國之威。如郭汾陽之單騎見虜。是矣。必有過人之學問才辯。而能屈戎狄之辭。而存本國之體。如富文忠之卻獻納二字。是矣。今天朝縉紳。數與夷使接者。果有汾陽之膽量乎。果有文忠之學問才辯乎。吾竊危之。
新字:士大夫。必有過人之胆量。方能奪戎狄之気。而伸本国之威。如郭汾陽之単騎見虜。是矣。必有過人之学問才弁。而能屈戎狄之辞。而存本国之体。如富文忠之却献納二字。是矣。今天朝縉紳。数与夷使接者。果有汾陽之胆量乎。果有文忠之学問才弁乎。吾窃危之。
書き下し
士大夫は、必ず人に過ぐる膽量有りて、方に能く戎狄の氣を奪ひて、本國の威を伸ぶ。郭汾陽の單騎にして虜に見ゆるが如きは、是れなり。必ず人に過ぐる學問才辯有りて、能く戎狄の辭を屈して、本國の體を存す。富文忠の獻納の二字を卻くるが如きは、是れなり。今天朝の縉紳、數しば夷使と接する者、果たして汾陽の膽量有るか。果たして文忠の學問才辯有るか。吾竊かに之を危ぶむ。
現代語訳
士大夫は、必ず人にすぐれた胆力があって、はじめて外敵の気勢を奪い、自国の威を伸ばすことができます。郭汾陽がただ一騎で虜に会ったのが、その例です。必ず人にすぐれた学問と弁舌の才があって、外敵の言い分を屈服させ、自国の体面を保つことができます。富文忠が「献納」の二字を退けたのが、その例です。いま朝廷の官僚たちで、しばしば外国の使者と接する者は、はたして汾陽の胆力があるでしょうか。はたして文忠の学問と弁舌の才があるでしょうか。私はひそかにこれを危ぶんでいます。
解説
外国の使者と向き合う士大夫には、胆力と、学問・弁舌の才が必要だと説く条です。胆力の例に郭汾陽が一騎で虜に会った話を、弁舌の例に富文忠が「献納」の二字を退けた話を引き、今の官僚がそれに及ぶのかと危ぶみます。「戎狄」「夷使」「虜」は当時の外国への呼称で、見方には時代の制約があります。それでも、交渉の場に立つ人に、気迫と知識と言葉の三つが揃っているかという問いは、今の交渉にも当てはまります。取引や折衝の窓口に、肩書が高いだけの人を立てていないか、考えさせられます。
この章句が説くこと
交渉胆力弁舌士大夫体面省諐録
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