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省諐録 / 第16条

予雖門葉衰薄。亦生長飽暖之中。未經牢鍊寒苦之境。常恐一旦國家緩急。起居飮食。多所不勝。然去夏彌利堅舶突至。江都戒嚴。予爲藩邸經理軍務。不得睡者。七晝夜。精神倍奮。今歲得罪下獄。飯麤食。囓鹽。與重囚爲伍。數旬恬然安之。精神活潑。身亦健康。此二事少自試驗。得益不細。亦可謂天之賜矣。

新字:予雖門葉衰薄。亦生長飽暖之中。未経牢錬寒苦之境。常恐一旦国家緩急。起居飲食。多所不勝。然去夏弥利堅舶突至。江都戒厳。予為藩邸経理軍務。不得睡者。七昼夜。精神倍奮。今歳得罪下獄。飯麤食。囓塩。与重囚為伍。数旬恬然安之。精神活溌。身亦健康。此二事少自試験。得益不細。亦可謂天之賜矣。

書き下し

予門葉衰薄なりと雖も、亦飽暖の中に生長し、未だ牢鍊寒苦の境を經ず。常に恐る、一旦國家の緩急あらば、起居飮食、多く勝へざる所あらんことを。然るに去夏、彌利堅の舶突として至り、江都戒嚴す。予藩邸の爲に軍務を經理し、睡るを得ざること七晝夜。精神倍す奮ふ。今歲罪を得て獄に下り、麤を飯ひ、鹽を囓み、重囚と伍を爲す。數旬恬然として之に安んじ、精神活潑、身も亦健康なり。此の二事少しく自ら試驗し、益を得ること細からず。亦天の賜と謂ふべし。

現代語訳

私の家は一族の勢いが衰えて薄いとはいえ、やはり飽食暖衣のなかで育ち、鍛え抜かれる寒さや苦しみの境遇を経験したことがありません。もし国家に急変があったとき、起居も飲食も、耐えられないことが多いのではないかと、常に恐れていました。ところが去年の夏、彌利堅の船が突然やって来て、江都は戒厳となりました。私は藩邸のために軍務を取りしきり、七昼夜眠れませんでしたが、精神はいっそう奮い立ちました。今年は罪を得て獄に下り、粗い飯を食べ、塩をかじり、重罪の囚人と同じ場所で過ごしました。数十日、平然とそれに安んじ、精神は活発で、身体も健康でした。この二つの出来事で少し自分を試し、得た益は小さくありません。これも天の賜といってよいでしょう。

解説

象山は、自分の家は勢いが衰えているが飽食暖衣の中で育ち、苦しい環境を経ていないので、国家の急に耐えられるか恐れていたと述べます。ところが去年の夏、彌利堅の船が突然来て江都が戒厳となり、藩邸の軍務を取りしきって七昼夜眠れなかったのに、精神はいっそう奮いました。今年は獄で粗食に耐え、重囚と過ごしても、数十日平然として健康だったといいます。この二つの体験を「天の賜」と受け止めます。現代でも、過酷な繁忙期や困難な環境を経て初めて、自分の耐性や判断の癖が分かることがあります。恐れていたことを実際に通ってみると見立てが変わるという実感は、部下に挑戦を任せる際の手がかりにもなります。

この章句が説くこと

試験艱難耐性緩急天の賜省諐録

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