省諐録 / 序
嘉永甲寅。夏四月。大星以事下獄。在繫七月。省愆之餘。弗無所述。然獄中禁筆研。不能存藁。故久而多忘。既出而錄其所臆記。藏諸巾笥。以貽子孫。如其學以示衆。則吾豈敢。
新字:嘉永甲寅。夏四月。大星以事下獄。在繋七月。省愆之余。弗無所述。然獄中禁筆研。不能存藁。故久而多忘。既出而録其所臆記。蔵諸巾笥。以貽子孫。如其学以示衆。則吾豈敢。
書き下し
嘉永甲寅、夏四月、大星事を以て獄に下り、繫に在ること七月。愆を省みるの餘、述ぶる所無きにあらず。然れども獄中は筆研を禁じ、藁を存すること能はず。故に久しくして多く忘る。既に出でて其の臆記する所を錄し、諸を巾笥に藏して、以て子孫に貽す。其の學以て衆に示すが如きは、則ち吾豈敢てせんや。
現代語訳
嘉永甲寅の年の夏四月、大星は事により獄に下され、七か月のあいだ繋がれました。自分の過ちを省みるなかで、書きとめるべきことがなかったわけではありません。しかし獄中では筆と硯が禁じられ、草稿を残すことができなかったため、時がたつと多くを忘れてしまいました。出獄してから、思い出せたことを書き記し、布の箱にしまって子孫に残します。この学問を人々に示すようなことは、どうして私にできましょうか。
解説
序は、この書が成った事情を述べる前書きです。象山は嘉永七年の夏四月に獄に下り、七か月繋がれたこと、獄中では筆と硯が禁じられて草稿を残せなかったことを記します。そのため出獄後、思い出せたことだけを書きとめたといいます。子孫に残すためで、学を人々に示す気はないという言い方は、謙遜を込めた断りです。後から記憶をたどって書かれた文章だと知って読むと、各条の重みが変わってきます。仕事でも、振り返りを後回しにすると抜け落ちが増えます。短くてもその日のうちに書き残す習慣が、のちの自分や後進への贈り物になります。
この章句が説くこと
獄中省みる記録子孫謙遜省諐録
関連する章句
-
『五常訓』巻之四・礼一礼は謙遜をたつとぶ。謙はへりくだる也。ほこると裏表なり。ほこるは我が才力権位功名にほこるの類なり。謙は自満せざるを云ふ。我が身に才徳権位功業あれどもほこらず。是天下の美徳なり。遜はゆづるなり。善事を君父にゆづり、人にゆづりて、自ら居らざるを云ふ。
-
『呻吟語』内篇・修身・損ずるは甚の體ぞ今人苦だ謙るを肯んぜず。只だ架子を拿へ得て定まり、以て體を存すと為す。夫子子張に政に從ふを告ぐるに、小大と無く眾寡と無く敢へて慢る無きを以て驕らずと為す。而して周公相と為りて、吐握して白屋に下ること甚だし。父師有道の君、知らず甚の體をか損ぜしや。若し名分の在る所ならば、自ら是れ貶損し得ず。
-
『十善法語』巻第五・不綺語戒執政大臣ノ楽ハ。上一人ヲ輔ケテ自ラ専ニセヌ。中百官ヲ率テ心常ニ謙遜ス。下万民ヲ保ンシテ共ニ太平ヲ楽ム。此位ハ人臣ノ極リ。此威勢ハ大君ニ等シ。一タヒ回顧スレハ万国色ヲ変ス。一タヒ言ヘハ率土奉行スル。徳海内ニ加ツテ自ラ其功ニ居ラス。恩禽獣ニ及ンテ其能ニホコラス。余ハ大君ノ楽ニ同スルシヤ。其楽糸竹管絃ノ及フ所ナラス。マシテ狂言綺語酒宴遊興ニ比スヘキコトテハナキシヤ。総シテ上ニ命ヲ受ル所アルヲ一ノ楽トス。天命ニ順スルシヤ。下ニ恵ム民有ヲ一ノ楽トス。人道行ハルルシヤ。天命ニ順スル故家門永ク其福ヲ受ク。人道ヲ行フ故子孫常ニ賢才徳者ヲ得ト云コトシヤ。
-
『夜船閑話』本文少焉、幽眼を開いて熟々視て、徐々として告げて曰く、我は是山中半死の陳人、櫨栗を拾ひ食ひ、麋鹿に伴つて睡る。此外更に何をか知らんや。自ら愧づ、遠く上人の来望を労することを、予即ち転々咨叩して休まず。
-
『呻吟語』内篇・修身・謙も禮に中らざれば損する所亦た多し或るひと問ふ、「傲は凶德と為らば、則ち謙は吉德なるか」と。曰く、「謙は真に是れ吉なり。然れども謙も禮に中らざれば、損する所亦た多し」と。上に在る者非禮の謙を為さば、則ち名份を亂し紀網を紊し、久しければ法令行はれず。下に在る者非禮の謙を為さば、則ち賤辱を取り氣節を喪ひ、久しければ廉恥地を掃ふ。君子の人に接するは未だ嘗て謹飭ならずんばあらず、身を持するは未だ嘗て正大ならずんばあらず。孔子曰く、「恭にして禮無ければ則ち勞す」と。又た曰く、「巧言令色足恭は、某も亦た之を恥づ」と。
-
『配所残筆』配所殘筆(1)我等儀、凡下之者、殊更無德短才、中々御歷々之御末席へも出座仕候者に無之候所、幼少之時分より、似合に人も存候て、御歷々方御取持被下候、此段全く我等德義の故とは不存候、天道之冥加に相成候故に可有之、愈天命をおそれ候て、物毎日用相愼候事候、 六歲より親申付候て、學問被爲仕候へ共、無器用に候て、漸八歲之頃迄に、四書五經七書詩文之書大方よみ覺候、 九歲之時、稻葉丹後守殿御來家塚田杢助我等親近付に候故、我等を林道春老弟子に仕度由賴入候、杢助序に丹後守殿迄申上候へば、幼少にて學問仕候事奇特成由被仰、於御城林道春へ直に丹後殿御賴被下候、就は杢助拙者を同道仕候而道春へ參り、道春永喜一座にて、我等に論語の序無點の唐本にて讀せ被申候、我等讀候へば、山谷も取出候て被爲讀候、永喜被申候は、幼少にと如斯讀候事奇特に候、乍然田舍學問之者師を仕候と相見え、點惡敷候由被申候、道春も永喜同意に被申候て感悅被仕、別而念頃に候て、十一歲迄以前讀候書物共又點を改、無點之本にて讀直申候、 十一歲の春、歲旦之詩を初て作候て道春へ見せ候へば、一字改被申候て、則序文を書、幼小之述作別 而感入候之由書狀被副之、和韻被仕候、 同年堀尾山城守殿家老揖斐伊豆我等へ被懸目候て、則山城守殿へ被召寄、書物を讀、伊豆是非共山城守殿へ奉公に出候樣、二百石は可被下候由申候へ共、我等親同心不仕候、
人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見る