省諐録 / 第11条
吾雖久從事格物。內而家庭。外而鄕黨親朋。異時停調處置。頗以爲當者。徐而省之。往往有大過不及。不滿人意。皆是工夫未熟。人情世故。未得通徹故也。可不策勵哉。
新字:吾雖久従事格物。内而家庭。外而郷党親朋。異時停調処置。頗以為当者。徐而省之。往往有大過不及。不満人意。皆是工夫未熟。人情世故。未得通徹故也。可不策励哉。
書き下し
吾久しく格物に從事すと雖も、内には家庭、外には鄕黨親朋、異時の停調處置、頗る以て當れりと爲すも、徐ろに之を省みれば、往往大いに過不及有りて、人意に滿たず。皆是れ工夫未だ熟せず、人情世故、未だ通徹するを得ざるが故なり。策勵せざるべけんや。
現代語訳
私は長く格物に従事してきましたが、内には家庭、外には郷里の人々や親しい友に対して、かつて行った取りはからいは、おおいに適切だったと思っていても、あとからゆっくり省みると、しばしば大きな過ぎや不足があり、人の心に満たないものでした。これはみな、工夫がまだ熟しておらず、人情や世間の事情に通じきれていないからです。励まずにいられましょうか。
解説
長く格物に従事しながら、家庭や郷里の人々に対する取りはからいを、その時は適切だと思っても、あとで省みると過不足があり、人の意に満たなかったと振り返る条です。原因は工夫が未熟で、人情世故に通じきれていないからだと、自分で診断します。「格物」は物事の理を究めること、「人情世故」は人の気持ちと世間の事情です。最後は「策励せざるべけんや」と、自分を励まして終わります。よい判断だと思った対応が、時間を置くと偏っていたと気づく経験は、管理職の誰にでもあるでしょう。後から省みる習慣そのものが、判断を磨くための材料になります。
この章句が説くこと
格物人情世故過不及工夫振り返り省諐録
関連する章句
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『省諐録』第12条格物の天地造化に於けるは、卻つて易し。人情世故に於けるは、卻つて難し。吾人須らく其の易きに狃れて其の難きに倦むべからず。
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伝習録・答羅整菴少宰書凡そ執事の「格物」の説に疑いを致す所以の者は、必ず其の内を是として外を非とすと謂わん。必ず其の専ら反観・内省の為に事として、其の講習・討論の功を遺棄すと謂わん。必ず其の綱領・本原の約に一意して、支条・節目の詳を脱略すと謂わん。必ず其の枯・槁・虚・寂の偏に沈溺して、物理・人事の変を尽くさずと謂わん。審らかに是くの如くんば、豈に但だ聖門に罪を獲、朱子に罪を獲るのみならんや。是れ邪説もて民を誣い、道に叛き正を乱す。人、得て之を誅すべきなり。而るを況んや執事の正直に於てをや。審らかに是くの如くんば、世の稍(やや)訓詁に明らかにして、先哲の緒論を聞く者も、皆な其の非なるを知らん。而るを況んや執事の高明に於てをや。凡そ某の所謂る「格物」は、其の朱子の九条の説に於て、皆な其の中に包羅統括す。但だ之を為すに要有り。作用、同じからず。正に所謂る毫釐の差なるのみ。然れども毫釐の差にして、千里の繆り、実に此に起こる。辨ぜざるべからず。
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