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政談 / 養老宴の事

惣じて貴人には朋友なきこと欠たること也、貴人の學問も、一切の藝も大名藝と云ものに成て、一切に込らぬは是故なり、殊に政務の道は下の情を能く知らざれは行ふ所圖にあたらぬものなり、忍びのものなどを遣はして遠國のことを見せ、近習の臣より下のことを聞くも善きやうなることなれとも、人々面々の了簡のほどならでは見も聞もならぬ物なり、軍に物見を遣はすに武功の人を撰ふことも、手前の器量程ならでは得見ぬ故也、殊に人の情にて下の惡しきことばかりを見出し聞出して、申し上げてよきことは申さぬものなり、されば下のことを見聞んとするにも心得あるべきことなり、殊に御用を承はる筋の人は手前の申し立たき筋の益に成るやうなる筋を多く申し上げるなり、是によりて何としても下の情に疎きこと是貴人の身の上に欠たることなり、

新字:惣じて貴人には朋友なきこと欠たること也、貴人の学問も、一切の芸も大名芸と云ものに成て、一切に込らぬは是故なり、殊に政務の道は下の情を能く知らざれは行ふ所図にあたらぬものなり、忍びのものなどを遣はして遠国のことを見せ、近習の臣より下のことを聞くも善きやうなることなれとも、人々面々の了簡のほどならでは見も聞もならぬ物なり、軍に物見を遣はすに武功の人を撰ふことも、手前の器量程ならでは得見ぬ故也、殊に人の情にて下の悪しきことばかりを見出し聞出して、申し上げてよきことは申さぬものなり、されば下のことを見聞んとするにも心得あるべきことなり、殊に御用を承はる筋の人は手前の申し立たき筋の益に成るやうなる筋を多く申し上げるなり、是によりて何としても下の情に疎きこと是貴人の身の上に欠たることなり、

書き下し

惣じて貴人には朋友なきこと欠たること也、貴人の学問も、一切の芸も大名芸と云ものに成て、一切に込らぬは是故なり、殊に政務の道は下の情を能く知らざれは行ふ所図にあたらぬものなり、忍びのものなどを遣はして遠国のことを見せ、近習の臣より下のことを聞くも善きやうなることなれとも、人々面々の了簡のほどならでは見も聞もならぬ物なり、軍に物見を遣はすに武功の人を撰ふことも、手前の器量程ならでは得見ぬ故也、殊に人の情にて下の悪しきことばかりを見出し聞出して、申し上げてよきことは申さぬものなり、されば下のことを見聞んとするにも心得あるべきことなり、殊に御用を承はる筋の人は手前の申し立たき筋の益に成るやうなる筋を多く申し上げるなり、是によりて何としても下の情に疎きこと是貴人の身の上に欠たることなり、

現代語訳

総じて貴人に朋友がないのは欠けたことである。貴人の学問も一切の芸も「大名芸」というものになって、何一つ身につかないのはこのためである。殊に政務の道は、下の情をよく知らなければ、行うことが図に当たらないものである。忍びの者などを遣わして遠国のことを見させ、近習の臣から下のことを聞くのも善いことのようであるが、人々それぞれの了簡の程度でなければ、見ることも聞くこともできないものである。軍に物見(偵察)を遣わすのに武功の人を選ぶのも、自分の器量ほどにしか見えないからである。殊に人の情として、下の悪いことばかりを見つけ聞き出して申し上げ、よいことは申さないものである。だから下のことを見聞きしようとするにも心得が要る。殊に御用を承る筋の人は、自分の申し立てたい筋の益になるようなことを多く申し上げるものである。これによって、どうしても下の情に疎いことが、貴人の身の上に欠けたところなのである。

解説

身分の高い人には対等に語り合う朋友がいないので、学問も芸も身につかず、何より下の実情がわからないと徂徠は指摘する。密偵や側近から話を聞いても、見聞きする者の器量以上のことは伝わらない。しかも報告は悪い話に偏り、御用を承る者は自分の主張に都合のよい話を多く持ち込む。トップに届く情報は幾重にも濾過されているのである。現代の経営者や管理職も同じ構造の中にいる。報告の多さに安心せず、誰がどんな動機で何を伝えているのかを意識しなければ、判断は現場の実態から離れていく。

この章句が説くこと

情報報告朋友器量経営政談

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