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政談 / 刑罰の事

源平の比新大納言成親卿の備後に流され、妙音院殿の土佐に流されたる類、武士預りて警護したるは、貴人成故なるへし、賴朝文覺か伊豆に流され、伊勢三郞か父の上野に流されたる類は、武士に預けられたる樣にもなきことは、此時分迄は戶籍の流ある故自由に他國へ行ことならずと見えたり、七八十年以前迄は庄內最上へ流されたる類あり、是は流罪と名を付たる迄にて、大形當時の御預け也、偖流罪の次は御預け也、是は大方貴人に有ことにて古の中流近流にも當るへし、嚴しく番を付けて一間なる所に置き刀物などを與へす、又預り主より隨分馳走するは貴人なる故也、大名の家來なとの御預に成たるは心儘に放し置き、只其預り主の國中を出さぬやうなるも有は愈々古の近流中流のやう也、

新字:源平の比新大納言成親卿の備後に流され、妙音院殿の土佐に流されたる類、武士預りて警護したるは、貴人成故なるへし、頼朝文覚か伊豆に流され、伊勢三郎か父の上野に流されたる類は、武士に預けられたる様にもなきことは、此時分迄は戸籍の流ある故自由に他国へ行ことならずと見えたり、七八十年以前迄は庄内最上へ流されたる類あり、是は流罪と名を付たる迄にて、大形当時の御預け也、偖流罪の次は御預け也、是は大方貴人に有ことにて古の中流近流にも当るへし、厳しく番を付けて一間なる所に置き刀物などを与へす、又預り主より随分馳走するは貴人なる故也、大名の家来なとの御預に成たるは心儘に放し置き、只其預り主の国中を出さぬやうなるも有は愈々古の近流中流のやう也、

書き下し

源平の比新大納言成親卿の備後に流され、妙音院殿の土佐に流されたる類、武士預りて警護したるは、貴人成故なるへし、頼朝文覚か伊豆に流され、伊勢三郎か父の上野に流されたる類は、武士に預けられたる様にもなきことは、此時分迄は戸籍の流ある故自由に他国へ行ことならずと見えたり、七八十年以前迄は庄内最上へ流されたる類あり、是は流罪と名を付たる迄にて、大形当時の御預け也、偖流罪の次は御預け也、是は大方貴人に有ことにて古の中流近流にも当るへし、厳しく番を付けて一間なる所に置き刀物などを与へす、又預り主より随分馳走するは貴人なる故也、大名の家来なとの御預に成たるは心儘に放し置き、只其預り主の国中を出さぬやうなるも有は愈々古の近流中流のやう也、

現代語訳

源平のころ、新大納言成親卿が備後に流され、妙音院殿(藤原師長)が土佐に流された類で、武士が預かって警護したのは貴人だからであろう。頼朝や文覚が伊豆に流され、伊勢三郎の父が上野に流された類は、武士に預けられた様子もないのは、この時分までは戸籍の法が通っていたので、自由に他国へ行くことができなかったと見える。七、八十年前までは庄内・最上へ流された類がある。これは流罪と名を付けただけで、だいたい今の御預けである。さて流罪の次は御預けである。これはたいてい貴人にあることで、古の中流・近流にも当たるだろう。厳しく番を付けて一間の所に置き、刃物などを与えない。また預かり主からずいぶんもてなすのは貴人だからである。大名の家来などが御預けになったのは、心のままに放しておき、ただその預かり主の国中から出さないようにするものもあるのは、いよいよ古の近流・中流のようである。

解説

源平の時代、貴人の流人には武士が付いて警護したが、頼朝や文覚には監視の様子がない。徂徠はこれを、当時は戸籍の法が生きていて、流人が勝手に他国へ行けなかった証拠と読む。そして今の「御預け」こそが、古の中流・近流に当たると整理する。史実の断片から制度の実際の働きを推し量る手つきである。名称にとらわれず、実際に何が機能しているかで制度を捉え直す視点は、現代の組織で規程と実態のずれを点検するときにも役立つ。

この章句が説くこと

流罪御預け戸籍刑罰制度源平

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