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政談 / 誓詞の事

耻辱をかきたること有て病と稱するは士の意持なれは捨られぬ事なり、古より志ある人奉公をせまじきと思ふときは病と稱すること古禮也、射は男子のせて叶はさるわざなる故、不得手なる人は射禮のときは不得手なりとは云はずして病と稱することあり、又堂上かたにて歌の御會のとき歌不得手なる人は所勞の仔細有ると云ふこと、皆上へ對して僞りを云ふて不忠の沙汰にはならぬことなり、特に時節を考へ、惡人の上にあるときは病を稱して引こむより外に仕方はなきことなる故、古より虛病を搆ふる人に賢者は多き也、

新字:耻辱をかきたること有て病と称するは士の意持なれは捨られぬ事なり、古より志ある人奉公をせまじきと思ふときは病と称すること古礼也、射は男子のせて叶はさるわざなる故、不得手なる人は射礼のときは不得手なりとは云はずして病と称することあり、又堂上かたにて歌の御会のとき歌不得手なる人は所労の仔細有ると云ふこと、皆上へ対して偽りを云ふて不忠の沙汰にはならぬことなり、特に時節を考へ、悪人の上にあるときは病を称して引こむより外に仕方はなきことなる故、古より虚病を搆ふる人に賢者は多き也、

書き下し

耻辱をかきたること有て病と称するは士の意持なれは捨られぬ事なり、古より志ある人奉公をせまじきと思ふときは病と称すること古礼也、射は男子のせて叶はさるわざなる故、不得手なる人は射礼のときは不得手なりとは云はずして病と称することあり、又堂上かたにて歌の御会のとき歌不得手なる人は所労の仔細有ると云ふこと、皆上へ対して偽りを云ふて不忠の沙汰にはならぬことなり、特に時節を考へ、悪人の上にあるときは病を称して引こむより外に仕方はなきことなる故、古より虚病を搆ふる人に賢者は多き也、

現代語訳

恥辱を受けたことがあって病と称するのは、武士の意地であるから捨てておけないことである。昔から志のある人が奉公をすまいと思うときは、病と称するのが古礼である。射は男子がしなければならない技であるから、不得手な人は射礼のとき、不得手だとは言わずに病と称することがある。また、公家方で歌の御会のとき、歌の不得手な人は所労(差し障り)があると言う。皆、上に対して偽りを言っても、不忠の沙汰にはならないことである。とりわけ時節を考えて、悪人が上にいるときは、病と称して引きこもるよりほかにやり方がないことであるから、昔から仮病を構える人に賢者が多いのである。

解説

恥辱を受けて病と称するのは武士の意地であり、志ある人が仕えたくないときに病と称するのは古礼だと徂徠は言う。射礼や歌会で不得手を病で断るのも、上への偽りでありながら不忠とはされない。悪人が上にいるときは病と称して退くほかなく、仮病の人に賢者が多いとまで述べる。偽りを一律に咎めるのではなく、礼が用意した逃げ道として理解する柔軟さがある。体面を保って身を引ける道を残すことは、人を大切にする組織の知恵でもある。

この章句が説くこと

古礼意地賢者進退仮病政談

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