政談 / 諸役人に器量を選ふ事
代末になるに隨かひて親類近付きの取成にて人を見出だすは依怙のやうなるを嫌ふけいきの心もあり、又老中の職は細かなる事をは勤めぬことなるに、今は面々の職掌暗く、下たる役人の世話をやくべき瑣細なることまでも聞きて、御奉公に精を出すと云ふやうに仕なす風俗、身のたかぶりをもこらへ退出すればくたびれて內へ入りて休息し居て、親類近付きにもあはす、朝になれは詮もなき對客を役目のやうに覺ゆる、是れ人を見出たすこと職掌なることを知らぬ故なり、番頭も組子に心安く會はすんは何としてか其の器量人抦をも知るへき、御旗本の面々も唯々老中若老中を勤めありき、鳥渡表を見たるばかりにては心に落着もなけれは其の家中に緣を求め、內證より付け入りにしなどする、いかさまにも度々參りたる人、又內證より取りなす人もあれは、覺えす皆贔負の沙汰となる、
新字:代末になるに随かひて親類近付きの取成にて人を見出だすは依怙のやうなるを嫌ふけいきの心もあり、又老中の職は細かなる事をは勤めぬことなるに、今は面々の職掌暗く、下たる役人の世話をやくべき瑣細なることまでも聞きて、御奉公に精を出すと云ふやうに仕なす風俗、身のたかぶりをもこらへ退出すればくたびれて内へ入りて休息し居て、親類近付きにもあはす、朝になれは詮もなき対客を役目のやうに覚ゆる、是れ人を見出たすこと職掌なることを知らぬ故なり、番頭も組子に心安く会はすんは何としてか其の器量人抦をも知るへき、御旗本の面々も唯々老中若老中を勤めありき、鳥渡表を見たるばかりにては心に落着もなけれは其の家中に縁を求め、内証より付け入りにしなどする、いかさまにも度々参りたる人、又内証より取りなす人もあれは、覚えす皆贔負の沙汰となる、
書き下し
代末になるに随かひて親類近付きの取成にて人を見出だすは依怙のやうなるを嫌ふけいきの心もあり、又老中の職は細かなる事をは勤めぬことなるに、今は面々の職掌暗く、下たる役人の世話をやくべき瑣細なることまでも聞きて、御奉公に精を出すと云ふやうに仕なす風俗、身のたかぶりをもこらへ退出すればくたびれて内へ入りて休息し居て、親類近付きにもあはす、朝になれは詮もなき対客を役目のやうに覚ゆる、是れ人を見出たすこと職掌なることを知らぬ故なり、番頭も組子に心安く会はすんは何としてか其の器量人抦をも知るへき、御旗本の面々も唯々老中若老中を勤めありき、鳥渡表を見たるばかりにては心に落着もなけれは其の家中に縁を求め、内証より付け入りにしなどする、いかさまにも度々参りたる人、又内証より取りなす人もあれは、覚えす皆贔負の沙汰となる、
現代語訳
世が末になるにしたがって、親類や知り合いの取りなしで人を見出すのは依怙(えこひいき)のようだと嫌う気持ちもあり、また老中の職は細かな事は勤めないものなのに、今は面々が職掌に暗く、下の役人が世話を焼くべき瑣細なことまで聞いて、御奉公に精を出すというように仕立てる風俗で、身の高ぶりも抑え、退出すればくたびれて奥へ入って休息していて、親類や知り合いにも会わず、朝になれば詮もない対客を役目のように心得る。これは人を見出すことが職掌であることを知らないからである。番頭も組子に気安く会わなければ、どうしてその器量や人柄を知ることができようか。御旗本の面々も、ただ老中・若老中を回り歩き、ちょっと表向きを見ただけでは心が落ち着かないので、その家中に縁を求め、内々から取り入ったりする。いかにもたびたび参上した人、また内々から取りなす人もいれば、知らず知らず皆、贔屓の沙汰となる。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『甲陽軍鑑』品第十三能き武士は先づ慇懃に惣別人の腹立つ事を、我方よりはせずそしるもけすも無案内なる者ども、己れが贔負の人をほむれば能き事と存知むざとほめ、世間に類まれなる男をもそしれば、我贔負の人は威光あがると思ふ人は是れも女人の穿鑿なり、そしるもけすも無穿鑿の近付き衆が、分別なき取りさたより出来する、さなくは又よき人の各ひとつ道理に参るに付き、一段中能き物にて候ぞ、
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『甲陽軍鑑』品第四十扨て悪き事あり共類親広き近付知音のひいき多くある者は悪事を吉事と申なし、さやうのまつりごとにてむほんの儀もかくして悪事出来してから大将の耳へ入る共それは更に所詮なき儀なり、其みなもとは出頭人の親類うかへてまはり、或はよきひきもちたる奉公人共、下の手抦を中にいひ、中の手抦を上に申、又ひいきなきをば中にいひ、中を下にいふ事、ひいき〳〵の取さた故如此、
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『甲陽軍鑑』品第四十右の次に山県三郎兵衛曰く、一ツ塲所にて侍一二人走り廻りの中に、類親おほき方をましのやうに申、それは信玄公大きにきらひ給ふは、上かろければ、ひいき〳〵の沙汰にて悉皆大将もなく、縦へ大将ありても、未練なる君の下にて弓矢のせんさく、女人のいさかひにおほき方の申かつ様子に相似たり、大将よければ、ましはまし、おとり対々なるは同じ事と分るがよき大将のわざなり、かならずおほき人の中には、せんさくなしに、むざと我ひいきをほむる女侍沢山なり、去に付かたましき侍とは女を三人よせてかくげに候、
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『甲陽軍鑑』品第十三然れ共長尾いげん入道工夫を以て井又左近太夫·本間江州両人を北条家へたばかり奉公にさしこす、本間は其歳四十一、井又左近は卅九歳、此両人は父上杉公の代にも北条氏縄と取合ひのさかひ、平井より撿使に行き、十八·十九の歳より度々の手抦をあらはしたる者どもにて、父山内殿旗本·足軽大将の中に若手の覚への者なり、去りながら本間·井又·四年已来則政公御意に家督背く子細は、則政公かとくに右より鹿狩りを制しめて法度にし給ひ、両出頭のすがの大膳·上原兵庫奉行に仰せ付けられ候、然ば本間·井又両出頭衆と知行所近し、又すがの·上原内の者共奉行の被官なればとて、たれとがむる人もなきにより、法度をやぶつて鹿狩りをする本間·井又·すがの殿·上原殿が内衆に頼み、一ツになりて狩りをするめつけ衆·すがの·上原事はかくして本間·井又がことばかり言上する、
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『甲陽軍鑑』品第四十女はひいきも正にならず、にくむも正にならず、ふがいなくかざる人間なれば、男子道にかさる人をば女侍と信玄公の仰らるゝ、
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『韓非子』難二第三十七桓公曰く、「吾聞く、人に君たる者は人を索むるに労し、人を使うに佚すと。吾仲父を得ること已に難し。仲父を得るの後、何為れぞ易からざらんや。」
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