甲陽軍鑑 / 品第四十
右の次に山縣三郞兵衞曰く、一ツ塲所にて侍一二人走り廻りの中に、類親おほき方をましのやうに申、それは信玄公大きにきらひ給ふは、上かろければ、ひいき〳〵の沙汰にて悉皆大將もなく、縱へ大將ありても、未練なる君の下にて弓矢のせんさく、女人のいさかひにおほき方の申かつ樣子に相似たり、大將よければ、ましはまし、おとり對々なるは同じ事と分るがよき大將のわざなり、かならずおほき人の中には、せんさくなしに、むざと我ひいきをほむる女侍澤山なり、去に付かたましき侍とは女を三人よせてかくげに候、
新字:右の次に山県三郎兵衛曰く、一ツ塲所にて侍一二人走り廻りの中に、類親おほき方をましのやうに申、それは信玄公大きにきらひ給ふは、上かろければ、ひいき〳〵の沙汰にて悉皆大将もなく、縦へ大将ありても、未練なる君の下にて弓矢のせんさく、女人のいさかひにおほき方の申かつ様子に相似たり、大将よければ、ましはまし、おとり対々なるは同じ事と分るがよき大将のわざなり、かならずおほき人の中には、せんさくなしに、むざと我ひいきをほむる女侍沢山なり、去に付かたましき侍とは女を三人よせてかくげに候、
書き下し
右の次に山県三郎兵衛曰く、一ツ塲所にて侍一二人走り廻りの中に、類親おほき方をましのやうに申、それは信玄公大きにきらひ給ふは、上かろければ、ひいき〳〵の沙汰にて悉皆大将もなく、縦へ大将ありても、未練なる君の下にて弓矢のせんさく、女人のいさかひにおほき方の申かつ様子に相似たり、大将よければ、ましはまし、おとり対々なるは同じ事と分るがよき大将のわざなり、かならずおほき人の中には、せんさくなしに、むざと我ひいきをほむる女侍沢山なり、去に付かたましき侍とは女を三人よせてかくげに候、
現代語訳
右の次に山県三郎兵衛が言う。一つの場所で侍が一人二人走り回った中に、類親の多いほうを増しのように申す。それは信玄公が大いに嫌われる。上が軽ければ、贔屓贔屓の沙汰でまったく大将もなく、たとえ大将がいても、未練なる君の下では弓矢の詮索が、女人の諍いに数の多いほうが言い勝つ様子に似ている。大将がよければ、増しは増し、劣りは劣り、対々なのは同じ事と分けるのが、よい大将の業である。必ず多い人の中には、詮索なしにむやみに我が贔屓を褒める女侍が沢山である。それにつけて、かたましき侍とは、女を三人寄せてこのようだと候。
解説
この章句が説くこと
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『甲陽軍鑑』品第四十就中よき武士他国より来る類親なき者、手がらの儀ひいき〳〵に申につき、信玄公度々御諚に、おのれがぬき出たる手がらをして、大略にいはるゝは、何程口惜からんと分別してみよ、そこの程をかんがうる者は、かならず中悪き人の事をも、ありように云ふを、其手抦をそしらぬ侍の我身にかけて大きなる武篇をいたす儀と、又よし贔負おほうして種々作ことをいひ、
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『甲陽軍鑑』品第四十扨て悪き事あり共類親広き近付知音のひいき多くある者は悪事を吉事と申なし、さやうのまつりごとにてむほんの儀もかくして悪事出来してから大将の耳へ入る共それは更に所詮なき儀なり、其みなもとは出頭人の親類うかへてまはり、或はよきひきもちたる奉公人共、下の手抦を中にいひ、中の手抦を上に申、又ひいきなきをば中にいひ、中を下にいふ事、ひいき〳〵の取さた故如此、
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『甲陽軍鑑』品第四十一第二に諸奉公人の忠節·忠功の手抦、大忠をもおしかすめ、大功をすこしくせんさくありて、善悪のさた大将のみだりなれば、家中の奉公人衆、善も知らす悪をも存ぜす贔負々々に物をいひ、忠節なき者共或は功もなきよわき人々、善悪同事のせんさくをよろこび、忠節·忠功の奉公人をそねみ、よくはいはずして結句そしる作法なれば、如件の心ばせにては、よき法度を悪きと存ずるに付、聞べきやう更になくして法度をそむけ共、右の賄賂にて事相頼むにより法度を破る奉公人共おほき事、
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『甲陽軍鑑』品第四十七扨又志村金ノ助·むかさ与一郎公事終て翌日に諸侍へ二十人衆をもつてあひふれらるゝ、其趣きは、今度むかさ与一郎を逆心の科ほど申しつくる事は、彼のむかさ男武士道不穿鑿の科なれば、以後又かやうのさたにては、よき侍をあしういひ、あしき侍をほめたて、ひいき〳〵のさほうにては信玄が家の侍、大小共に善悪同事にて、よき武士も悉く勇なうして、第一は軍法見だりなるべし、軍法あしければ晴信勝利を失ふ事疑ひ有るまじ、勝利を失ふ事疑ひなければ、件のむかさ与一郎は晴信ほこさきの恥有るみなもと也、扨てこそ至て謀叛の科と同前なり、故に如件機ものにあぐると、あひふれさせ給ふなり、
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『甲陽軍鑑』品第四十女はひいきも正にならず、にくむも正にならず、ふがいなくかざる人間なれば、男子道にかさる人をば女侍と信玄公の仰らるゝ、
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論語・八佾篇射は皮を主とせず、力を同じ科に為(わ)けず。古の道なり。