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政談 / 御徒士衆與力を頭の心儘に入るゝ事並に御旗本諸役人に召出さるゝ事

然るに近年は太平久しく續きて世無事なる故、世上のならはし一定して家筋と云ふこと固まりたり、上より中下までも大方立身の筋も極まりたる故、人々の心に勇みなくなりて立身せんよりは、仕損ひをして家の潰れぬ料見か善きと云ふより、何事も唯々大方にして世を渡る心になり、人の心殊の外に橫着になりたり、斯の如くに人の心のなるやうに使ふは、人を殺して使ふと云ふものなり、同し人にても生かすと殺すとにて各別になること也、

新字:然るに近年は太平久しく続きて世無事なる故、世上のならはし一定して家筋と云ふこと固まりたり、上より中下までも大方立身の筋も極まりたる故、人々の心に勇みなくなりて立身せんよりは、仕損ひをして家の潰れぬ料見か善きと云ふより、何事も唯々大方にして世を渡る心になり、人の心殊の外に横着になりたり、斯の如くに人の心のなるやうに使ふは、人を殺して使ふと云ふものなり、同し人にても生かすと殺すとにて各別になること也、

書き下し

然るに近年は太平久しく続きて世無事なる故、世上のならはし一定して家筋と云ふこと固まりたり、上より中下までも大方立身の筋も極まりたる故、人々の心に勇みなくなりて立身せんよりは、仕損ひをして家の潰れぬ料見か善きと云ふより、何事も唯々大方にして世を渡る心になり、人の心殊の外に横着になりたり、斯の如くに人の心のなるやうに使ふは、人を殺して使ふと云ふものなり、同し人にても生かすと殺すとにて各別になること也、

現代語訳

ところが近年は太平が久しく続いて世が無事であるので、世間の習わしが一定して、家筋というものが固まってしまった。上から中、下に至るまで、おおかた出世の道筋も決まってしまったので、人々の心に勇みがなくなり、出世しようとするよりは、しくじりをして家を潰さないようにする考えがよいということから、何事もただほどほどにして世を渡る心になり、人の心がことのほか横着になった。このように人の心がなるように使うのは、人を殺して使うというものである。同じ人でも、生かすか殺すかで格別に違ってくるのである。

解説

太平が続いて家筋が固まり、上から下まで出世の道筋が決まってしまうと、人は出世より失敗して家を潰さないことを優先し、何事もほどほどに済ませるようになる。徂徠はこれを、人の心が横着になったと言い、そうなるように使うことを「人を殺して使う」と呼ぶ。同じ人でも使い方次第で別人になるという指摘である。現代でも、昇進の道が見えず、減点主義で評価される職場では、人は挑戦をやめて無難な仕事に終始する。社員のやる気のなさは、仕組みの結果であることが多い。

この章句が説くこと

家筋太平意欲減点横着政談

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