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政談 / 代官と云ふ役の事

されば文官成る故戰國の時分に之をかろしめて腰抜け役と云ひたるより、今は地方の支配と成小身なるものを申し付け、而かもその下司は手代と稱して特の外に賤しきものを申し付け置き、年貢の取り立てより外に肝心なることなきと心得ること以ての外のことなり、其身立身の望みもなく、下劣なる役儀と云ふことになりて、而かも小身なる故自から奸曲をして御仕置にあふ人絕えぬなり、之を文官とすることも國の守すあしやう、目郡司なとは文官なれとも、公家の代には文武を兼ねたることなれとも、鎌倉の時分より武家より守護を置きたるより、武のかたをば守護のかたへくだし、專ら文官になりたるやうなり、

新字:されば文官成る故戦国の時分に之をかろしめて腰抜け役と云ひたるより、今は地方の支配と成小身なるものを申し付け、而かもその下司は手代と称して特の外に賤しきものを申し付け置き、年貢の取り立てより外に肝心なることなきと心得ること以ての外のことなり、其身立身の望みもなく、下劣なる役儀と云ふことになりて、而かも小身なる故自から奸曲をして御仕置にあふ人絶えぬなり、之を文官とすることも国の守すあしやう、目郡司なとは文官なれとも、公家の代には文武を兼ねたることなれとも、鎌倉の時分より武家より守護を置きたるより、武のかたをば守護のかたへくだし、専ら文官になりたるやうなり、

書き下し

されば文官成る故戦国の時分に之をかろしめて腰抜け役と云ひたるより、今は地方の支配と成小身なるものを申し付け、而かもその下司は手代と称して特の外に賤しきものを申し付け置き、年貢の取り立てより外に肝心なることなきと心得ること以ての外のことなり、其身立身の望みもなく、下劣なる役儀と云ふことになりて、而かも小身なる故自から奸曲をして御仕置にあふ人絶えぬなり、之を文官とすることも国の守すあしやう、目郡司なとは文官なれとも、公家の代には文武を兼ねたることなれとも、鎌倉の時分より武家より守護を置きたるより、武のかたをば守護のかたへくだし、専ら文官になりたるやうなり、

現代語訳

そういうわけで代官は文官であるから、戦国の時代にこれを軽んじて「腰抜け役」と呼んだことから、今では地方(農村)の支配役となって小身の者を任じ、しかもその下役は手代と称して、ことのほか卑しい者を任じておき、年貢の取り立てのほかに肝心なことはないと心得ているのはもってのほかである。本人には出世の望みもなく、下劣な役儀ということになり、しかも小身であるから、自然と不正をして処罰される人が絶えない。これを文官とすることについても、国の守や介、目、郡司などは文官ではあるが、公家の時代には文武を兼ねていた。鎌倉の時代から武家が守護を置いたので、武の方面は守護の方へ移し、専ら文官になったようである。

解説

戦国の世に代官は「腰抜け役」と軽んじられ、太平の世になっても小身の者が任じられ、下役の手代も身分の低い者で占められた。徂徠は、出世の望みがなく待遇も低い役に不正が絶えないのは当然だと見る。役の重さと任じる人の格が釣り合っていないことが、腐敗の根にあるという指摘である。さらに古代の国司は文武を兼ねていたとし、武備を失ったことも問題にする。現代でも、現場の要となる職を軽く扱い、報酬も将来の道も与えなければ、不祥事が起きやすい構造になる。

この章句が説くこと

代官不正待遇職分文武政談

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