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政談 / 官位爵祿の次第並に勳階頭助允目の事

偖て十二階の大がい、宰相くんなり、それ階をも立てをくときは、この方はとらへものあるゆゑ無理と云ふにも、御威勢はかりとむのすちにもならぬ德あり、又た高家なとの侍從も勳階を勳六等にして置くときは、かた〳〵に大名小別なる所ありて宜しきなり、且つ又た天下の諸大名皆々御家來なれとも、官位は上方より綸旨位記を下さるゝことなる故、下心には禁裡を眞の君と存するともがらもあるへし、當分唯々御威勢に恐れて御家來分になりたると云ふまてのことなとゝ心根失せすんは、世の末になりたらん時安心なり難き筋もあるなり、關東にては裝束をも烏帽子直垂まてにして、これに十二階級を拵へ置き、官位に付きての裝束は御上洛のときはかり用ゆることに定め置き、宰相中將少將侍從四品諸大夫等の官位は唯々上の徽章まて心得させ、實は勳階の方を重く取り行はゝ、人は仕くせと云ふもの大切なることにて、年久しく斯の如く仕くせを付けたらんには公武各別の詮慥かに立つへし、惣して御政務の筋何ことも堂上方邪魔となりて上の御心一はいに、御執行ひ遊はされ難き筋有るやうなれば此愚按に及ぶなり、

新字:偖て十二階の大がい、宰相くんなり、それ階をも立てをくときは、この方はとらへものあるゆゑ無理と云ふにも、御威勢はかりとむのすちにもならぬ徳あり、又た高家なとの侍従も勲階を勲六等にして置くときは、かた〳〵に大名小別なる所ありて宜しきなり、且つ又た天下の諸大名皆々御家来なれとも、官位は上方より綸旨位記を下さるゝことなる故、下心には禁裡を真の君と存するともがらもあるへし、当分唯々御威勢に恐れて御家来分になりたると云ふまてのことなとゝ心根失せすんは、世の末になりたらん時安心なり難き筋もあるなり、関東にては装束をも烏帽子直垂まてにして、これに十二階級を拵へ置き、官位に付きての装束は御上洛のときはかり用ゆることに定め置き、宰相中将少将侍従四品諸大夫等の官位は唯々上の徽章まて心得させ、実は勲階の方を重く取り行はゝ、人は仕くせと云ふもの大切なることにて、年久しく斯の如く仕くせを付けたらんには公武各別の詮慥かに立つへし、惣して御政務の筋何ことも堂上方邪魔となりて上の御心一はいに、御執行ひ遊はされ難き筋有るやうなれば此愚按に及ぶなり、

書き下し

偖て十二階の大がい、宰相くんなり、それ階をも立てをくときは、この方はとらへものあるゆゑ無理と云ふにも、御威勢はかりとむのすちにもならぬ徳あり、又た高家なとの侍従も勲階を勲六等にして置くときは、かた〳〵に大名小別なる所ありて宜しきなり、且つ又た天下の諸大名皆々御家来なれとも、官位は上方より綸旨位記を下さるゝことなる故、下心には禁裡を真の君と存するともがらもあるへし、当分唯々御威勢に恐れて御家来分になりたると云ふまてのことなとゝ心根失せすんは、世の末になりたらん時安心なり難き筋もあるなり、関東にては装束をも烏帽子直垂まてにして、これに十二階級を拵へ置き、官位に付きての装束は御上洛のときはかり用ゆることに定め置き、宰相中将少将侍従四品諸大夫等の官位は唯々上の徽章まて心得させ、実は勲階の方を重く取り行はゝ、人は仕くせと云ふもの大切なることにて、年久しく斯の如く仕くせを付けたらんには公武各別の詮慥かに立つへし、惣して御政務の筋何ことも堂上方邪魔となりて上の御心一はいに、御執行ひ遊はされ難き筋有るやうなれば此愚按に及ぶなり、

現代語訳

さて十二階のおおよそは、宰相を勲一等にあてる。その階をも立てておくときは、こちら(武家)には拠り所があるので、無理というにも、ただ御威勢だけで押し付ける筋にもならない益がある。また高家などの侍従も勲階を勲六等にしておくときは、それぞれに大名と区別されるところがあってよいのである。かつまた、天下の諸大名は皆御家来であるけれども、官位は上方(朝廷)から綸旨・位記を下されることなので、内心では禁裏を真の君と思う者どももあるであろう。当分はただ御威勢に恐れて御家来分になったというまでのことだなどという心根が失せなければ、世の末になったとき安心しがたい筋もあるのである。関東では装束も烏帽子・直垂までにして、これに十二の階級をこしらえておき、官位についての装束は御上洛のときだけ用いることに定めておき、宰相・中将・少将・侍従・四品・諸大夫などの官位は、ただ上辺の徽章までと心得させ、実は勲階の方を重く取り行えば、人には仕癖というものが大切であって、年久しくこのように仕癖を付けたならば、公武各別の意義が確かに立つであろう。総じて御政務の筋は何事も堂上方が邪魔となって、上のお心いっぱいにお執り行いなさりにくい筋があるようなので、この愚案に及ぶのである。

解説

勲階を採用する狙いは、人事の便利さだけではない。大名の官位は朝廷が授けるため、諸大名の中には朝廷こそ真の主君と思う者もいるだろうと徂徠は危ぶむ。そこで幕府独自の勲階を重く用い、朝廷の官位は上洛時の飾りにとどめれば、長年の習慣によって公武の別が確かに立つという。権威の源泉を誰が握るかという、統治の根本に関わる提案である。現代の組織でも、評価や肩書の授与権が外部や別系統にあると、構成員の忠誠は分散する。何を誰が授けるかの設計が、組織の求心力を左右するのである。

この章句が説くこと

勲階公武権威官位習慣政談

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