政談 / 武家米を貯ふる仕方の事
武家知行所に居住するとき、家居は所の木を伐りて造る、米は年貢米を用ゆる、味噌豆も所に生する、衣服は織りて着る、衣食住に物入ることなし、下々のきりまいも米にて取らする、又大小衣服を免す時は分限なる百姓皆家來となる、人返しをするときは奉公人他へ住むことならぬ故、皆地頭の家來となり譜代となる、されは米を賣りて金にすることは入らぬことなり、右に云ひたる四分一をまうくると云ふは至極の兼合ひなり、尙ほ其の外をも米を妄りに賣らす武家に占め置くときは、商人も米を金にせすしてならぬこと故商人特の外に迷惑して諸色の直段は心の儘に下かるへし、是は主客の勢ひと云ふことなり、當時は旅宿の境界なる故金なくてはならぬ故、米を賣りて金にして商人より物を買て日々を送ることなれば、商人主となりて武家は客なり、故に諸色の直段武家の心儘にならぬなり、武家皆知行所に住するときは米を賣らずして事濟む故、商人米を欲しかる事なれは武家主となりて商人客なり、されは諸色の直段は心儘に成ことなり、是皆古聖人の廣大甚深なる智惠より出てたる萬古不易の掟なり、
新字:武家知行所に居住するとき、家居は所の木を伐りて造る、米は年貢米を用ゆる、味噌豆も所に生する、衣服は織りて着る、衣食住に物入ることなし、下々のきりまいも米にて取らする、又大小衣服を免す時は分限なる百姓皆家来となる、人返しをするときは奉公人他へ住むことならぬ故、皆地頭の家来となり譜代となる、されは米を売りて金にすることは入らぬことなり、右に云ひたる四分一をまうくると云ふは至極の兼合ひなり、尚ほ其の外をも米を妄りに売らす武家に占め置くときは、商人も米を金にせすしてならぬこと故商人特の外に迷惑して諸色の直段は心の儘に下かるへし、是は主客の勢ひと云ふことなり、当時は旅宿の境界なる故金なくてはならぬ故、米を売りて金にして商人より物を買て日々を送ることなれば、商人主となりて武家は客なり、故に諸色の直段武家の心儘にならぬなり、武家皆知行所に住するときは米を売らずして事済む故、商人米を欲しかる事なれは武家主となりて商人客なり、されは諸色の直段は心儘に成ことなり、是皆古聖人の広大甚深なる智恵より出てたる万古不易の掟なり、
書き下し
武家知行所に居住するとき、家居は所の木を伐りて造る、米は年貢米を用ゆる、味噌豆も所に生する、衣服は織りて着る、衣食住に物入ることなし、下々のきりまいも米にて取らする、又大小衣服を免す時は分限なる百姓皆家来となる、人返しをするときは奉公人他へ住むことならぬ故、皆地頭の家来となり譜代となる、されは米を売りて金にすることは入らぬことなり、右に云ひたる四分一をまうくると云ふは至極の兼合ひなり、尚ほ其の外をも米を妄りに売らす武家に占め置くときは、商人も米を金にせすしてならぬこと故商人特の外に迷惑して諸色の直段は心の儘に下かるへし、是は主客の勢ひと云ふことなり、当時は旅宿の境界なる故金なくてはならぬ故、米を売りて金にして商人より物を買て日々を送ることなれば、商人主となりて武家は客なり、故に諸色の直段武家の心儘にならぬなり、武家皆知行所に住するときは米を売らずして事済む故、商人米を欲しかる事なれは武家主となりて商人客なり、されは諸色の直段は心儘に成ことなり、是皆古聖人の広大甚深なる智恵より出てたる万古不易の掟なり、
現代語訳
武家が知行所に住むときは、家居はその土地の木を伐って造る。米は年貢米を用いる。味噌や豆もその土地に生じる。衣服は織って着る。衣食住に金が要ることがない。下々の切米も米で取らせる。また大小(刀)や衣服を許すときは、分限のある百姓は皆家来となる。人返しをするときは奉公人がよそに住むことができないので、皆地頭の家来となり譜代となる。それゆえ米を売って金にすることは要らないことである。右に言った四分の一を設けるというのは至極の兼ね合いである。なおそのほかも米をむやみに売らず武家に締めて置くときは、商人も米を金にしなければならないので、商人はことのほか迷惑して、諸色の値段は(武家の)思いのままに下がるであろう。これは主客の勢いということである。今は旅宿の境界なので金がなくてはならず、米を売って金にし、商人から物を買って日々を送るのであるから、商人が主となって武家は客である。だから諸色の値段は武家の思うままにならない。武家が皆知行所に住むときは米を売らずに事が済むので、商人が米を欲しがることになり、武家が主となって商人が客である。それゆえ諸色の値段は思うままになるのである。これは皆古の聖人の広大で甚だ深い知恵から出た万古不易の掟である。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『政談』諸色直段の事諸色の直段のことは近年上の御世話にて少々は下直なるやうになれとも、其の取捌き根本諸色の直段年を逐て段々に高直に成る謂れあり、是に立入らさる時は皆当分の策略にて何の用に立たさることなり、只今金の員数元禄金乾金の時分の半分に减し、銀は四つ宝のときの三分一なり、されは諸色の直段元禄金乾金の時分の半分より内に下されば未た本の位にあらす、此四五十年以前に比すれは多くは十倍二十倍なり、されは世界の困窮尤のことにて之を下くる道を吟味せすして叶はさることなり、
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『政談』諸色直段の事其下直にする道を知ることは先つ高直に段々成りたる謂れを知らずしては手段をすへきやうなし、偖其物の直段の段々に高直になりたる仔細一品にあらす様々の謂あり、先つ第一には国々より出る諸物多くは其地頭へ運上を取るに、請負の者直段を次第に糶上けて手前に糶落す事故物の直段次第に高直になるなり、其運上は其大名の使ひ料となり、又は借金の方へ振向けてあり、さるによりて当時諸大名既に困窮したる上は愈々直段下り難きなり、之を避くる仕方甚た難し、
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孫子・作戦篇師に近き者は貴く売る。貴く売れば則ち百姓財竭き、財竭くれば則ち丘役に急なり。
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『政談』御旗本諸士の困窮を救ふ事百工のわさに付き御当地京都大坂なとにては成かたきことも有へし、某唐紙唐筆にてなけれは物書れぬ故諸方を承り合はせ、日本の内にても唐紙をすき唐筆をゆふ人ありやと尋ね求むるに、唐紙この以前大坂にてすき出したれとも物入り多き故商売にならぬとて止めたりと承はる、唐筆は弟子ともの内に能く差図をしてゆはする者あれとも是も工手間掛りて損なりとてゆはす、活版と云ふ者調法なるものなれとも、是亦御当地なとにては工手間かゝる故版をほるよりは却て損なり、石摺も真の仕方は工手間かゝる故成りがたし、織物のたぐひを京都にて織出せとも是も唐の如くすれはもの入多き故、何も薄く織出して唐には劣る、是皆店賃高く諸色高直なる故何事も〳〵掛りもの多くなりて善きものは出来ぬ、
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『玉勝間』一の巻 むかしは銭すくなかりし事おなじ書に、上品八丈絹六匹、代百廿文(各廿文)紺布二反、(無文)代四文とあり。むかしは銭のいといとすくなかりし程、これにて知るべし。また同書に、工藤庄司景光、佐与美の水干を着す、と云うこと見ゆ。今の世に、布に細目と云うがあるは、このさよみの訛れる名なるべし。
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『政談』諸色直段の事又御城下の宿賃甚た高直なる故諸商人皆之を利倍の算用に入るゝによりて直段下らぬなり、某か祖父伊勢の国に先祖の手作りしたる田地ありて、夫を売て僅に五十両にて整へたる町屋敷其後父か代に人に売りたるか、此二十年程以前には二千両の売替になりたりと承はる、右祖父の整へたるときは天草より余程前のことなれは八十年計以前の事なり、斯の如くにて宿賃四千倍の上になりたれは物の直段高直なる事尤のことなり、此下かる仕方心得あるへし、
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