政談 / 武家米を貯ふる仕方の事
右の如くして米を至極に高直にする時は御城下の町人皆雜穀を食するやうになるへし、されは君子小人の食物自然に分れて是れ亦古の道に叶ふことなり、總して商人は利倍を以て渡世をするもの故、當時の有樣にても一夜けんきやうにとも成り、又一日の內に潰れもするものにて、是元來不定なる渡世をするもの故なり、武家と百姓とは田地より外の渡世なくて空住の者なれは、只武家と百姓の常住に宜しきやうにするを治めの根本とすへし、商人の潰るゝと云ふは曾て搆ふましきことなり、是亦治道の大割りの心得なりと知るへし、
新字:右の如くして米を至極に高直にする時は御城下の町人皆雑穀を食するやうになるへし、されは君子小人の食物自然に分れて是れ亦古の道に叶ふことなり、総して商人は利倍を以て渡世をするもの故、当時の有様にても一夜けんきやうにとも成り、又一日の内に潰れもするものにて、是元来不定なる渡世をするもの故なり、武家と百姓とは田地より外の渡世なくて空住の者なれは、只武家と百姓の常住に宜しきやうにするを治めの根本とすへし、商人の潰るゝと云ふは曽て搆ふましきことなり、是亦治道の大割りの心得なりと知るへし、
書き下し
右の如くして米を至極に高直にする時は御城下の町人皆雑穀を食するやうになるへし、されは君子小人の食物自然に分れて是れ亦古の道に叶ふことなり、総して商人は利倍を以て渡世をするもの故、当時の有様にても一夜けんきやうにとも成り、又一日の内に潰れもするものにて、是元来不定なる渡世をするもの故なり、武家と百姓とは田地より外の渡世なくて空住の者なれは、只武家と百姓の常住に宜しきやうにするを治めの根本とすへし、商人の潰るゝと云ふは曽て搆ふましきことなり、是亦治道の大割りの心得なりと知るへし、
現代語訳
右のようにして米を至極高値にするときは、御城下の町人は皆雑穀を食べるようになるであろう。それゆえ君子と小人の食物が自然に分かれて、これもまた古の道にかなうことである。総じて商人は利を倍にして渡世をするものなので、今のありさまでも一夜で分限者にもなり、また一日のうちに潰れもするもので、これはもともと定まらない渡世をする者だからである。武家と百姓とは田地よりほかの渡世がなく、常住の者であるから、ただ武家と百姓が常住にうまくいくようにすることを治めの根本とすべきである。商人が潰れるということは、決して構うべきことではない。これもまた治道の大きな割り振りの心得であると知るべきである。
解説
この章句が説くこと
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『政談』諸色直段の事されとも是等は末のことなり、末に取つきては仲々商人の智恵には及ひかたし、畢竟する所皆武家旅宿の境界より出たる悪弊なる故、其本に返りて武家の皆々土に有り付置て、初巻に記したる米をしむる一術を用ひは、商人の勢ひ忽に哀て物の直段は心の儘に成へし、然れは畢竟物の直段高きも旅宿と制度なきとの二つに帰することなり、
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『政談』武家米を貯ふる仕方の事武家知行所に居住するとき、家居は所の木を伐りて造る、米は年貢米を用ゆる、味噌豆も所に生する、衣服は織りて着る、衣食住に物入ることなし、下々のきりまいも米にて取らする、又大小衣服を免す時は分限なる百姓皆家来となる、人返しをするときは奉公人他へ住むことならぬ故、皆地頭の家来となり譜代となる、されは米を売りて金にすることは入らぬことなり、右に云ひたる四分一をまうくると云ふは至極の兼合ひなり、尚ほ其の外をも米を妄りに売らす武家に占め置くときは、商人も米を金にせすしてならぬこと故商人特の外に迷惑して諸色の直段は心の儘に下かるへし、是は主客の勢ひと云ふことなり、当時は旅宿の境界なる故金なくてはならぬ故、米を売りて金にして商人より物を買て日々を送ることなれば、商人主となりて武家は客なり、故に諸色の直段武家の心儘にならぬなり、武家皆知行所に住するときは米を売らずして事済む故、商人米を欲しかる事なれは武家主となりて商人客なり、されは諸色の直段は心儘に成ことなり、是皆古聖人の広大甚深なる智恵より出てたる万古不易の掟なり、
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『政談』武家米を貯ふる仕方の事此の上に御領私領も年貢米をむざと売り払はす蔵を立てゝ込め置くへし、其仕方蔵をは羽目にして米を籾ともに俵にせすはだかにて入れ置くへし、籾共に貯へ置くときは何ケ年も持つものなり、俵に入れぬときは、盗人を防き虫も付かす、是異国の法にて、近江の国なとには今も斯の如くするなり、日本御図帳に取かの殊の外に高く付けてあるも、古籾納めの時の升目なりと知るへし、大抵毎年の年貢米四分一は堅く売払ふへからす、是古生制の古法なり、斯の如くすれは三年にて一年のものなりたる故、はうはいの貢も成なり、又大飢饉の節民を救ふこともなるなり、又一揆兵乱之ある節兵粮の手つかひに事欠くことなし、
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『政談』制度の事是れ町人百姓憎むにあらす、頭か身上右の如くの奢りによりて物入り多く、暮しに物入ること今は常に成りたれは、此の制法出しぬること頭か為めにもよき事なり、第一右の諸物を町人百姓心の儘に用ゆる故、諸色の直段日を逐ふて高直なり、然れとも此の吟味竿の先きに鈴を付けたるやうなることにては仲々参り届くましきなり、当時吉利支丹の如く厳密にさかすへきことなり、されとも畢竟武家を知行所に置くにあらされは此の法田舎迄行渡りかたかるへし、先つ武家には制度を立てす、唯々斯の如く百姓町人に計り制度を立つるときは、諸色特の外に下直になるへし、左様に四五年もして武家に息をつかせ、其の上にて武家にも制度を委細に立ては御政道滞ほりなく行きわたるへし、是れ緩急先後の仕掛なり、
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『政談』當時困窮を改むる道古三代の制度を考へ定むべき事金にて諸事のものを買調へねは一日も暮されぬこと故商人なくては武家は立たぬなり、諸事の物は皆商人の手にあるを夫を金を出して申し受て用を弁する事なる故、直段の押し引きは有れとも押し買はならす、畢竟直段は商人の申し次第なり、是れ武家にて旅宿の境界なる故、商人の利倍を得る事此百年以来ほと盛なることは天地開闢より異国にも日本にも之なし、其の仔細は書籍のをもて近くは長崎の唐物の直段にて知るゝことなり、御城下に聚り集ひて町の家居夥しくなり、北は千住南は品川まて立続くなるほとに、如何やうなることにても御城下にて手つかゆることなく、何程大層なることも忽ちの内に調ほりて自由便当云ふばかりなし、斯の如く御城下は諸事に付け自由なる所なる上に、せわしなき風俗と制度なきと此二つを知る故武家の輩米を貴ふ心無くなり、金を大切のものと思ひ、是よりして身上を皆商人に吸取れて武家日々に困究することなり、
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『政談』武家米を貯ふる仕方の事右の通りにて世界を賑はす道事済むことなれとも、知行所に風損水損もあり、家に子供多く、媳取り婿取り打続き、又は永病ひ困窮すること人界に必す有ることにて、強ち覚悟の悪しきと云ふ物にてもなし、此等は脇より助け救ふ事なけれは叶はさること也、御城下は一町の内脇へ宿替をすることのならぬやうに立て置き、武家は知行所に居住して一郡の内を一組とし、幼少より同組同所のものと馴れなじみ、交りを睦くし、悪事をは互ひに意見を云ひ、改めぬものをは頭に訴ふる法を立て置ときは、自然と相互ひに助け救ふこと是亦人情の常なり、
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