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政談 / 御旗本諸士の困窮を救ふ事

百工のわさに付き御當地京都大坂なとにては成かたきことも有へし、某唐紙唐筆にてなけれは物書れぬ故諸方を承り合はせ、日本の內にても唐紙をすき唐筆をゆふ人ありやと尋ね求むるに、唐紙この以前大坂にてすき出したれとも物入り多き故商賣にならぬとて止めたりと承はる、唐筆は弟子ともの內に能く差圖をしてゆはする者あれとも是も工手間掛りて損なりとてゆはす、活版と云ふ者調法なるものなれとも、是亦御當地なとにては工手間かゝる故版をほるよりは却て損なり、石摺も眞の仕方は工手間かゝる故成りがたし、織物のたぐひを京都にて織出せとも是も唐の如くすれはもの入多き故、何も薄く織出して唐には劣る、是皆店賃高く諸色高直なる故何事も〳〵掛りもの多くなりて善きものは出來ぬ、

新字:百工のわさに付き御当地京都大坂なとにては成かたきことも有へし、某唐紙唐筆にてなけれは物書れぬ故諸方を承り合はせ、日本の内にても唐紙をすき唐筆をゆふ人ありやと尋ね求むるに、唐紙この以前大坂にてすき出したれとも物入り多き故商売にならぬとて止めたりと承はる、唐筆は弟子ともの内に能く差図をしてゆはする者あれとも是も工手間掛りて損なりとてゆはす、活版と云ふ者調法なるものなれとも、是亦御当地なとにては工手間かゝる故版をほるよりは却て損なり、石摺も真の仕方は工手間かゝる故成りがたし、織物のたぐひを京都にて織出せとも是も唐の如くすれはもの入多き故、何も薄く織出して唐には劣る、是皆店賃高く諸色高直なる故何事も〳〵掛りもの多くなりて善きものは出来ぬ、

書き下し

百工のわさに付き御当地京都大坂なとにては成かたきことも有へし、某唐紙唐筆にてなけれは物書れぬ故諸方を承り合はせ、日本の内にても唐紙をすき唐筆をゆふ人ありやと尋ね求むるに、唐紙この以前大坂にてすき出したれとも物入り多き故商売にならぬとて止めたりと承はる、唐筆は弟子ともの内に能く差図をしてゆはする者あれとも是も工手間掛りて損なりとてゆはす、活版と云ふ者調法なるものなれとも、是亦御当地なとにては工手間かゝる故版をほるよりは却て損なり、石摺も真の仕方は工手間かゝる故成りがたし、織物のたぐひを京都にて織出せとも是も唐の如くすれはもの入多き故、何も薄く織出して唐には劣る、是皆店賃高く諸色高直なる故何事も〳〵掛りもの多くなりて善きものは出来ぬ、

現代語訳

諸々の職人の技については、御当地(江戸)や京都・大坂などではできにくいこともあるだろう。私は唐紙・唐筆でなければ物が書けないので、諸方に問い合わせ、日本の内でも唐紙を漉き、唐筆を作る人はいないかと尋ね求めたところ、唐紙は以前大坂で漉き出したけれども、費用が多くかかるので商売にならないとやめたと聞いた。唐筆は弟子たちの中によく指図して作らせる者がいるけれども、これも手間がかかって損だと言って作らない。活版というものは便利なものだが、これまた御当地などでは手間がかかるので、版木を彫るよりかえって損である。石摺(拓本)も本式のやり方は手間がかかるのでできがたい。織物の類を京都で織り出しても、これも唐のようにすれば費用がかさむので、どれも薄く織り出して唐のものに劣る。これはみな店賃が高く諸物価が高いので、何事にもかかりが多くなり、良いものができないのである。

解説

徂徠は自らの愛用する唐紙・唐筆を国内で作れないかと探した経験から、都会では店賃と物価の高さがあらゆる手間を割高にし、紙も筆も活版も織物も、本式に作れば損になるので質の劣るものしか出回らないと指摘する。高コストの都市に生産を集めることが、品質と技術の衰えを招くという産業論である。現代でも、立地のコストが品質への投資を圧迫していないか、手間のかかる本物の仕事をどこでなら続けられるかを考えることは、ものづくりや拠点戦略の要点となる。

この章句が説くこと

物価職人品質産業技術立地

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