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政談 / 制度の事

上下も入り長上下も入り裏附も入り、夏上下も入り羽織も入りのしめも入り綿入も入り袷も入り、かたびらも入ることにて品多けれは儉約にならぬなり、ひやくへの上に制度を立つるときは只今までの袷かたびら用に立たぬゆゑ大なる費なり、直座を少しあつかうにするときは大方當分二つも拵ゆるときは一年もそれにて濟むへし、下にはたゞ今まての小袖にても木綿布子にても女房の小袖にても上へ見えねは埓明くへし、出家のころもの如く上に一つ別はれは埓明くなり、直垂は地も一定し色も一定し紋もかたも付けられす、すなさしめならぬ物故ものすきすへきやうなし、又素襖なとを用ゆるは麻にて質素すぎたる、是は昔武士のくらい平民にて賤しきときのことなり、民をは布より布衣と云ひて麻を着るもの故其時分は相應なり、今は武士と民とは各別に別るれは麻を着すること今日の人情に叶はす、殊に人の心は立派に見ことなることを好むこと人情の當なり、餘に粗相に立てたる制度は久くこゝろ末まて喜はさる事にて、必す法の破るゝことあるへし、

新字:上下も入り長上下も入り裏附も入り、夏上下も入り羽織も入りのしめも入り綿入も入り袷も入り、かたびらも入ることにて品多けれは倹約にならぬなり、ひやくへの上に制度を立つるときは只今までの袷かたびら用に立たぬゆゑ大なる費なり、直座を少しあつかうにするときは大方当分二つも拵ゆるときは一年もそれにて済むへし、下にはたゞ今まての小袖にても木綿布子にても女房の小袖にても上へ見えねは埓明くへし、出家のころもの如く上に一つ別はれは埓明くなり、直垂は地も一定し色も一定し紋もかたも付けられす、すなさしめならぬ物故ものすきすへきやうなし、又素襖なとを用ゆるは麻にて質素すぎたる、是は昔武士のくらい平民にて賤しきときのことなり、民をは布より布衣と云ひて麻を着るもの故其時分は相応なり、今は武士と民とは各別に別るれは麻を着すること今日の人情に叶はす、殊に人の心は立派に見ことなることを好むこと人情の当なり、余に粗相に立てたる制度は久くこゝろ末まて喜はさる事にて、必す法の破るゝことあるへし、

書き下し

上下も入り長上下も入り裏附も入り、夏上下も入り羽織も入りのしめも入り綿入も入り袷も入り、かたびらも入ることにて品多けれは倹約にならぬなり、ひやくへの上に制度を立つるときは只今までの袷かたびら用に立たぬゆゑ大なる費なり、直座を少しあつかうにするときは大方当分二つも拵ゆるときは一年もそれにて済むへし、下にはたゞ今まての小袖にても木綿布子にても女房の小袖にても上へ見えねは埓明くへし、出家のころもの如く上に一つ別はれは埓明くなり、直垂は地も一定し色も一定し紋もかたも付けられす、すなさしめならぬ物故ものすきすへきやうなし、又素襖なとを用ゆるは麻にて質素すぎたる、是は昔武士のくらい平民にて賤しきときのことなり、民をは布より布衣と云ひて麻を着るもの故其時分は相応なり、今は武士と民とは各別に別るれは麻を着すること今日の人情に叶はす、殊に人の心は立派に見ことなることを好むこと人情の当なり、余に粗相に立てたる制度は久くこゝろ末まて喜はさる事にて、必す法の破るゝことあるへし、

現代語訳

裃も要り、長裃も要り、裏付きも要り、夏裃も要り、羽織も要り、熨斗目も要り、綿入れも要り、袷も要り、帷子も要るということで、品が多いので倹約にならないのである。白衣の上に制度を立てるときは、今までの袷や帷子が役に立たないので大きな費えである。直垂を少し厚手にするときは、たいてい当分二着もこしらえれば一年もそれで済むであろう。下にはただ今までの小袖でも木綿の布子でも女房の小袖でも、上から見えなければけりがつく。出家の衣のように、上に一つ別のものがあればけりがつくのである。直垂は生地も一定し、色も一定し、紋も型も付けられず、すなさしめならぬ物なので、好みを凝らしようがない。また素襖などを用いるのは麻なので質素すぎる。これは昔、武士の位が平民で賤しかったときのことである。民を布衣といって麻を着るものなので、その時分は相応であった。今は武士と民とははっきり分かれているので、麻を着せることは今日の人情にかなわない。ことに人の心は立派に見えることを好むのが人情の当然である。あまりに粗末に立てた制度は、長く心の末まで喜ばないことで、必ず法が破れることがあるであろう。

解説

なぜ直垂なのか。裃・羽織・袷・帷子と季節や場面ごとに品数が多いから費用がかさむのであり、厚手の直垂を上に一枚着れば二着で一年が済み、下は何を着ていてもよい。生地・色・紋が定まっていて好みを凝らす余地がないのも利点である。一方で麻の素襖は質素すぎて退ける。人は立派に見えることを好むのが人情であり、粗末すぎる制度は人の心が喜ばず、必ず破られるからである。徂徠の制度論は、倹約一辺倒ではなく人情に根ざす点に特色がある。現代の規程づくりでも、窮屈すぎるルールは形骸化することを覚えておきたい。

この章句が説くこと

制度倹約人情衣服簡素政談

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