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政談 / 貸借の道の事

偖貸借するときは人々の相對にして、滯りたるとき奉行へ出るによりて貸借に樣々の惡事あることなり、偖人の有餘不足を通する道は無盡に若くはなし、異國の社倉の法最も宜しきなり、されとも御城下は人々めん〳〵こうにて然も住所定らす、欠落逐電多き故無盡混もの破る、是によりて御停止となる、一卷目に云ひたる戶籍の法立て、武家には肝煎町には名主の世話にて取扱はゞ無盡の破るゝことなく、人々の不足は之にて補ふべきなり、當時も田舍の百姓の上にて無盡の破るゝと云ふことはなきことなり、大名の借金も其家老の印、京大坂江戶にても所々の奉行の加印にて貸すへし、身上の高に應し金高の程を極め、知行所の內何々村の年貢米を利足幷に本金濟崩しの料に渡す事、法を極むる時は以來の大借の疊まり無かるへし、

新字:偖貸借するときは人々の相対にして、滞りたるとき奉行へ出るによりて貸借に様々の悪事あることなり、偖人の有余不足を通する道は無尽に若くはなし、異国の社倉の法最も宜しきなり、されとも御城下は人々めん〳〵こうにて然も住所定らす、欠落逐電多き故無尽混もの破る、是によりて御停止となる、一巻目に云ひたる戸籍の法立て、武家には肝煎町には名主の世話にて取扱はゞ無尽の破るゝことなく、人々の不足は之にて補ふべきなり、当時も田舎の百姓の上にて無尽の破るゝと云ふことはなきことなり、大名の借金も其家老の印、京大坂江戸にても所々の奉行の加印にて貸すへし、身上の高に応し金高の程を極め、知行所の内何々村の年貢米を利足幷に本金済崩しの料に渡す事、法を極むる時は以来の大借の畳まり無かるへし、

書き下し

偖貸借するときは人々の相対にして、滞りたるとき奉行へ出るによりて貸借に様々の悪事あることなり、偖人の有余不足を通する道は無尽に若くはなし、異国の社倉の法最も宜しきなり、されとも御城下は人々めん〳〵こうにて然も住所定らす、欠落逐電多き故無尽混もの破る、是によりて御停止となる、一巻目に云ひたる戸籍の法立て、武家には肝煎町には名主の世話にて取扱はゞ無尽の破るゝことなく、人々の不足は之にて補ふべきなり、当時も田舎の百姓の上にて無尽の破るゝと云ふことはなきことなり、大名の借金も其家老の印、京大坂江戸にても所々の奉行の加印にて貸すへし、身上の高に応し金高の程を極め、知行所の内何々村の年貢米を利足幷に本金済崩しの料に渡す事、法を極むる時は以来の大借の畳まり無かるへし、

現代語訳

さて貸借をするときは人々の相対であって、滞ったときに奉行へ訴え出るので、貸借にさまざまな悪事が生じるのである。さて人の余りと不足を通じ合う道は無尽に及ぶものはない。異国の社倉の法が最もよい。けれども御城下は人々が銘々勝手で、しかも住所が定まらず、欠落(夜逃げ)・逐電が多いので、無尽が混乱して破綻する。それで禁止となった。一巻目に言った戸籍の法を立て、武家では肝煎、町では名主の世話で取り扱えば、無尽が破綻することはなく、人々の不足はこれで補えるであろう。今でも田舎の百姓のあいだでは無尽が破綻するということはないのである。大名の借金も、その家老の印、京・大坂・江戸でもそれぞれの奉行の加印で貸すべきである。身代の高に応じて金額のほどを決め、知行所のうち何々村の年貢米を利息と元金返済の料に渡すこと、と法を決めれば、今後大きな借金が積み重なることはないであろう。

解説

人々が余りと不足を融通し合う最良の方法として、徂徠は無尽(頼母子講)と中国の社倉の法を挙げる。江戸で無尽が破綻したのは、住所が定まらず夜逃げが多い都市の性格のせいであり、第一巻で説いた戸籍の法を整え、組頭や名主が世話をすれば田舎のようにうまくいくと言う。大名の借金にも家老・奉行の加印と返済原資の指定を求める。相互扶助は顔の見える共同体と身元の確かさがあって初めて機能するという指摘は、現代の共済やコミュニティ金融にもそのまま当てはまる。仕組みは土台の人間関係の上に立つのである。

この章句が説くこと

無尽社倉相互扶助戸籍信用政談

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