政談 / 公儀御身上の制度の事
元は御連枝の御分れなれとも、世久く隔りては上の御氣遣ひあるへきは此の御方々なり、中頃駿河と甲斐とを御一所に遊せられたるなとも宜しからざる國つけなり、銚子浦小田原浦のたぐひ大名ともに下さるへき地にあらす、魚類は浦人の役として御臺所へ付込みて、魚を澤山に御使はせありて豐かなるこそさもあるへきことなれ、箇樣の所をは大名に下され、魚をは御買上げにして、御物の入るとて御臺所にけこを入れてるにあらしぬさもしきことを御役人とものするは如何なることやらん不學の致す所なり、野菜のたぐひは畑年貢を許し江戶在鄕の田少く畑ばかりの所にて、百姓の役として作らせ御臺所へ入れさすへし、一切の諸色は諸職人に御扶持を下され、其ものを御渡し有て織らせ作らせすへし、古より職人のたぐひを官位をすること此いわれなり、
新字:元は御連枝の御分れなれとも、世久く隔りては上の御気遣ひあるへきは此の御方々なり、中頃駿河と甲斐とを御一所に遊せられたるなとも宜しからざる国つけなり、銚子浦小田原浦のたぐひ大名ともに下さるへき地にあらす、魚類は浦人の役として御台所へ付込みて、魚を沢山に御使はせありて豊かなるこそさもあるへきことなれ、箇様の所をは大名に下され、魚をは御買上げにして、御物の入るとて御台所にけこを入れてるにあらしぬさもしきことを御役人とものするは如何なることやらん不学の致す所なり、野菜のたぐひは畑年貢を許し江戸在郷の田少く畑ばかりの所にて、百姓の役として作らせ御台所へ入れさすへし、一切の諸色は諸職人に御扶持を下され、其ものを御渡し有て織らせ作らせすへし、古より職人のたぐひを官位をすること此いわれなり、
書き下し
元は御連枝の御分れなれとも、世久く隔りては上の御気遣ひあるへきは此の御方々なり、中頃駿河と甲斐とを御一所に遊せられたるなとも宜しからざる国つけなり、銚子浦小田原浦のたぐひ大名ともに下さるへき地にあらす、魚類は浦人の役として御台所へ付込みて、魚を沢山に御使はせありて豊かなるこそさもあるへきことなれ、箇様の所をは大名に下され、魚をは御買上げにして、御物の入るとて御台所にけこを入れてるにあらしぬさもしきことを御役人とものするは如何なることやらん不学の致す所なり、野菜のたぐひは畑年貢を許し江戸在郷の田少く畑ばかりの所にて、百姓の役として作らせ御台所へ入れさすへし、一切の諸色は諸職人に御扶持を下され、其ものを御渡し有て織らせ作らせすへし、古より職人のたぐひを官位をすること此いわれなり、
現代語訳
もとは御連枝(将軍家の分家)の御分かれであっても、世が久しく隔たれば、お上がお気遣いなさるべきはこの御方々である。中頃、駿河と甲斐とを一人にお与えになったのなども、よろしくない国の付け方である。銚子浦や小田原浦の類いは、大名に下されるべき地ではない。魚類は浦の者の役として御台所へ運び込ませ、魚を沢山にお使いになって豊かであってこそ、しかるべきことである。このような所を大名に下され、魚は御買い上げにして、物入りだからといって御台所でけちけちと切り詰めるさもしいことを、御役人どもがするのはどういうことであろうか。学問のないことのいたすところである。野菜の類いは、畑年貢を免除して、江戸近郊の田が少なく畑ばかりの所で、百姓の役として作らせ、御台所へ納めさせるのがよい。一切の諸品は、諸職人に御扶持(給与)を下され、その材料をお渡しになって織らせ作らせるのがよい。昔から職人の類いに官位を与えることがあるのは、このいわれである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『政談』當時困窮を改むる道古三代の制度を考へ定むべき事畢竟精を出して上へ奉公をして、上より賜はる禄は残らず皆御城下の商人のものとなり、馬を持ことも成らす、人を持こともならず、各春のきふ符の間をは質物にてとりつゞき、町人に仕送りと云ふことを頼みて、己れが身上は人の手に渡るやうに当時はなりきはまりたるは哀なる事ならずや、畢竟は箸一本にても代を出して買調へされは叶はさること故斯の如くなりたるなり、之のみならず公儀の御身上も同く旅宿の仕掛なり、其仔細は何もかも皆御買上けにて御用を弁せらるヽによりて旅宿なり、惣して和漢ともに天下を知し召さるゝ上は、御買上と云ふことはなき故なり、大名なとの在所他国なるか御城下に参勤して詰め居るは旅宿なれは尤のことなり、天下を知し召さるゝ上は日本国中は皆御国なり、何もかも皆其のものを直に御用ひなさるゝこと故御買上げと云ふことはなき筈なり、物を買ふと云ふは元来人のものなるをたゝは取られぬことなる故代を出して取ることを云ふなり、
-
『政談』公儀御身上の制度の事其仕方公儀にて御入用のほとを積りて其大名の身上〳〵に応し出さしむべきなり、譬へは越前よりは奉書つめ、会津よりは蝋うるし、南部相馬よりは馬、上州加賀よりは絹、仙台長門よりは紙のたぐひなり、身上の高よりは出もの多形なとは外より出るものを下さるゝこともあるへし、御城下に御蔵を所々に立て置きて馬にて付込すへし、当時献上物なとのやうに仰山にすることにては諸大名無用の痛みと成るへし、唯当時御買上けになるを御買上げにせすして諸大名に出さするまてのことにすへし、歴代の先例皆斯の如し、偖又古は名山大川は封せずと云ふことあり、左様の所をは大名には下さらぬことなり、材木の出つる山金銀銅鉄鉛等の出つる山、名塩の出つる地は下されましき所なり、当時尾州へ木曽を進せられ、紀州へは熊野を進せられたること古法になきことなり、下されましき山を下し置れて上の御用には材木を御買上けにすること如何なる無調法なる仕方なるろや、特に東山東海の二道を尾州の御領にて塞くこと是れ亦あるましきことの第一なり、
-
『政談』當時困窮を改むる道古三代の制度を考へ定むべき事日本国中皆我か国なれは何もかも日本国中より出るものは我かものなるを、人の物と思ひて代を出して買ひ調ふること大なる取違へなり、是天下を保ち玉ふても矢張り大名の仕方なり、其起り御入国の時分は未た大名にてまします、関ケ原御陣より大坂御陣まては天下の諸大名あの方より帰伏し奉るとも、未た天下を知し召したると云ふ名目は付られねは御制度を御定めあるへき様なし、大坂御陣の翌年東照宮御他界遊はされ間もなきことなれは、是まての所に御制法も立て玉はす、其以後に執政の面々皆不学にて和漢の古法に暗く、矢張大名にて御座なされし時の仕掛の今まても執行はるゝによりて斯の如くの誤りあるなり、然れは御領私領ともに一年の年貢米を食料はかり残して、其外は悉く売払ひ金にして其金にて諸国のものを買調へて日夜朝暮の用事を弁すること是れ当時武家の有様なり、
-
『政談』官位爵祿の次第並に勳階頭助允目の事地かたには吟味役と云ふものありて将のやうなる者なれとも助なし、頭大勢なり、町奉行は助も允も尽く内与力と云ふものを家来に拵へて取捌かすること宜しからさることなり、寺社奉行は全く家来はかりを使ふ故、役替れは皆新規になりてものになれす、御奏者は家来を殿中へ呼ひてをし合なと云ふやう成ることをさするたくひ宜しからさることなり、御老中には若老中すけのやうなるものにて祐筆の組頭なそさんにもあたるへけれとも、しやうのやうなるものなくてこと足らす、若老中にも亦御旗本の支配をする所勤め各別なり、御老中若老中寺社奉行なとは大名にて家来を召しつかふて用ひ定る様なれとも、公儀の御用に家来をなれさすること詮なし、あたら御旗本を箇様のことに召し仕はれす候故、御旗本の者共に才智つかす、特に大名はものことに下の情に疎きものなり、学ても平人のことく得せぬものなり、されとも此等の御役は皆禄の相応有りて仰せ付けらるゝことなれは平人に仰せ付けられかたし、何れも御旗本の学問も有り才智あるものを、その下役にして使ひ立ては夫より外の役に仰せ付けらるゝにも事もなれ、又才智のほとも知れて宜かるへし、兎角に何の役にも頭役添役下役留役と云ふものを拵へ置かは諸事の為め宜かるへきなり、
-
『政談』武家旅宿の境遇を改むる事田舎に武家居住せさる故武家田舎へ行きて放埓をするを気遣ひ、五里外へ罷出つることは今はならさることなれとも、夫とは違ひ在々所々に地頭之ある上は筋ある所へ参り放埓すへきやうなし、川狩鹿狩をも仕りて山川をかけありき、国中の地理をも知り、嶮岨にもなれ、物事に武士にわさ功者になるへし、当時は我か身江戸にありて知行所遠方なれは、なじみもなく恩義も貫ぬかす、只百姓よりは年貢をとる者と覚え、百姓は亦年貢を出だすとはかり覚え、唯々取らん取られじの心計りにて百姓に非道をするやからも之あれとも、不断に我か住所にて見なれ聞なれする時は愛憐の心も自然と生し、如何様の人にても百姓をさのみ惨くはせぬこと是亦人情なり、武家を知行所に差置くこと斯の如く徳ありて甚た宜しきことなり、
-
『政談』諸大名の困窮を救ふ事諸大名の身上のこと是亦同断なり、其身上の困究するいはれは、隔年に江戸詰する故御城下をはれと覚え、物成悉く売り払ひ金にして江戸にて遣ひ棄ることは大名の境界なり、これによりて自分のをこりたへ〳〵なるも、江戸の物価高直になることによりて次第にもの入り強くなる、慶長寛永の頃まては諸大名謀叛を気遣ひ金を遣はするやうにすること其時分御年寄ともの計策なり、これによりて御老中諸大名よりものをとること却て御奉公の筋にて、其時分は曽て遠慮なきことなりと云ふ、此筋盛遣に成て御先々前御代の頃は御手伝ひ等仰せ付らるゝこと盛なる故諸大名愈々物をひ、上の御威勢の烈しきに恐れて手前の困窮をも顧みす、京都大坂の町人より金を借り返弁もならす、大方はよこにねることになれは其後は金を貸さす、然るに金銀のかはりめになり困窮以ての外なり、
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る