政談 / 當時制度之なき事
制度なきと云ふことはいかゝのことなれは、古聖人の治めに制度と云ふものを立てて、是にて上下の差別を立て奢を押へ世界を豊かにする妙術なり、これによりて歴代皆斯く制度を立つることなるに、當時は大亂の後に武威を以て天下を治め玉ひたるに、時代遙かに隔りて古の制度は用ひ難く、其上大亂後なれは何事も制度皆な亡ひ失せたりし代の風俗を改めす、其の儘に差措くによりて今の代には何事も制度なく、上下共に心儘の世界なり、衣服家居器物或は婚禮喪禮音信贈答より祭の次第まて人々貴賤知行の高下身抦の品に應して夫〳〵に次第あるを制度と云ふなり、今の世にも大抵夫々に格もあるやうなる故、物の道理を知らぬ人は制度はあるものをと思へとも、今の代に有る格とす、其樣なるものは古より傳りたる禮にもあらず、又た上より乾と立られたる格にもあらず、その中には上より時々に仰せ出されたることもあれども、何れも皆な世の風俗にて自然と出來たることにて、世の風俗移り行けは其の格と云ふやうなるものも移り行く、
新字:制度なきと云ふことはいかゝのことなれは、古聖人の治めに制度と云ふものを立てて、是にて上下の差別を立て奢を押へ世界を豊かにする妙術なり、これによりて歴代皆斯く制度を立つることなるに、当時は大乱の後に武威を以て天下を治め玉ひたるに、時代遥かに隔りて古の制度は用ひ難く、其上大乱後なれは何事も制度皆な亡ひ失せたりし代の風俗を改めす、其の儘に差措くによりて今の代には何事も制度なく、上下共に心儘の世界なり、衣服家居器物或は婚礼喪礼音信贈答より祭の次第まて人々貴賤知行の高下身抦の品に応して夫〳〵に次第あるを制度と云ふなり、今の世にも大抵夫々に格もあるやうなる故、物の道理を知らぬ人は制度はあるものをと思へとも、今の代に有る格とす、其様なるものは古より伝りたる礼にもあらず、又た上より乾と立られたる格にもあらず、その中には上より時々に仰せ出されたることもあれども、何れも皆な世の風俗にて自然と出来たることにて、世の風俗移り行けは其の格と云ふやうなるものも移り行く、
書き下し
制度なきと云ふことはいかゝのことなれは、古聖人の治めに制度と云ふものを立てて、是にて上下の差別を立て奢を押へ世界を豊かにする妙術なり、これによりて歴代皆斯く制度を立つることなるに、当時は大乱の後に武威を以て天下を治め玉ひたるに、時代遥かに隔りて古の制度は用ひ難く、其上大乱後なれは何事も制度皆な亡ひ失せたりし代の風俗を改めす、其の儘に差措くによりて今の代には何事も制度なく、上下共に心儘の世界なり、衣服家居器物或は婚礼喪礼音信贈答より祭の次第まて人々貴賤知行の高下身抦の品に応して夫〳〵に次第あるを制度と云ふなり、今の世にも大抵夫々に格もあるやうなる故、物の道理を知らぬ人は制度はあるものをと思へとも、今の代に有る格とす、其様なるものは古より伝りたる礼にもあらず、又た上より乾と立られたる格にもあらず、その中には上より時々に仰せ出されたることもあれども、何れも皆な世の風俗にて自然と出来たることにて、世の風俗移り行けは其の格と云ふやうなるものも移り行く、
現代語訳
制度がないというのはどういうことかといえば、古の聖人の治めに制度というものを立て、これによって上下の差別を立て、おごりを抑え、世の中を豊かにする妙術である。これによって歴代みなこのように制度を立てたのに、今は大乱の後に武威によって天下をお治めになり、時代がはるかに隔たって古の制度は用いにくく、その上、大乱の後なので、何事も制度がみな滅び失せてしまった時代の風俗を改めず、そのままにしておいたため、今の代には何事も制度がなく、上下ともに思うままの世の中である。衣服・家屋・器物、あるいは婚礼・喪礼・音信・贈答から祭りの次第まで、人々の貴賤、知行の高下、身柄の品に応じて、それぞれに次第があるのを制度というのである。今の世にもおおよそそれぞれに格式もあるようなので、物の道理を知らない人は、制度はあるではないかと思うけれども、今の代にある格式というようなものは、古から伝わった礼でもなく、また上からきちんと立てられた格式でもない。その中には上から時々に仰せ出されたこともあるが、いずれもみな世の風俗で自然とできたことで、世の風俗が移り変われば、その格式というようなものも移り変わっていく。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『墨子』尚賢下若の國の士に問う、孰か喜び孰か懼れんと。我れ以て必ず忠信の士は喜び、忠ならず信ならざる士は懼れんと為す。今、唯だ尚賢を以て其の國家百姓に政を為す毋くんば、國の善を為す者をして勸ましめ、暴を為す者をして沮ましむ。夫れ以て天下に政を為さば、天下の善を為す者をして勸ましめ、暴を為す者をして沮ましむ。然らば昔、吾が堯舜禹湯文武の道を貴ぶ所以の者は、何の故を以てなるか。其の唯だ衆に臨み政を發して民を治むるに毋くんば、天下の善を為す者をして得て勸む可からしめ、暴を為す者をして得て沮む可からしむるを以てなり。然らば則ち此の尚賢なる者は、堯舜禹湯文武の道と同じきなり。
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『墨子』尚同中子墨子曰く、方今の時の正長は、則ち本より古者と異なれり。之を譬うるに量るに五刑を以てするが若く然り。昔者、聖王は制して五刑を為り、以て天下を治む。有苗の五刑を制するに逮び至りては、以て天下を亂る。則ち此れ豈に刑の不善ならんや。刑を用うること則ち不善なるなり。是を以て先王の書、呂刑の道いて曰く、「苗民、練を用いず、折くに則ち刑し、唯だ五殺の刑を作り、法と曰う」と。則ち此れ善く刑を用うる者は以て民を治め、善く刑を用いざる者は以て五殺と為すを言う。則ち此れ豈に刑の不善ならんや。刑を用うること則ち不善なり、故に遂に以て五殺と為す。是を以て先王の書、術令の道いて曰く、「惟れ口は好を出だし戎を興す」と。則ち此れ善く口を用うる者は好を出だし、善く口を用いざる者は以て讒賊冦戎と為すを言う。則ち此れ豈に口の不善ならんや。口を用うること則ち不善なり、故に遂に以て䜛賊冦戎と為す。
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老子 第18章大道廃れて、仁義有り。智慧出でて、大偽有り。六親和せずして、孝慈有り。国家昏乱して、忠臣有り。
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孫子・形篇善く兵を用うる者は、道を修めて法を保つ。故に能く勝敗の政を為す。
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孫子・始計篇法とは、曲制・官道・主用なり。
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『墨子』公孟公孟子、子墨子に謂いて曰く、「知に人より賢れる有らば、則ち知と謂う可きか」と。子墨子曰く、「愚の知に以て人より賢れる有るも、愚、豈に知と謂う可けんや」と。公孟子曰く、「三年の喪は、吾が父母を慕うを學ぶなり」と。子墨子曰く、「夫れ嬰兒子の知は、獨り父母を慕うのみ。父母、得可からざれば、然れども號びて止まず。此れ其の故は何ぞや。即ち愚の至りなり。然らば則ち儒者の知、豈に以て嬰兒子より賢れること有らんや」と。子墨子曰く、「儒者に問う、『何の故に樂を為すや』と」。
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