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政談 / 當時世話敷風俗を改むへき事

右に云ひたる如く自由便當なる御城下なる故、金さへあれば如何ほど火急なることも皆な間に合ふなり、其火急なるに乘して利を取んと商人共物を俄かに高直にすれとも、兎角間を合はせねばならぬこと故構はず、買調へて間を合はすること當時武家の風俗と成こと、左樣に急なることにてなきをも何事も〳〵兼て心掛け支度することはなし、譬へは出掛て衣服を調ふるに袴の括り緒なし、足皮切れたりとて急に中間を走らかして町にて買立つる故高直なるを買ひ來りても其の頓着なく間に合ひたりと悅ふ、明日の出仕に下々の合羽見苦しと夜に成りて云へば、急に人を走らかして買ひ調ふるたくひ、何もかも急に辨ずるゆゑ事々に付物入り云ふはかりなし、間に合はねは主人以の外不機嫌になる故女房「をとな」なと相談して質を置きて間を合はせ主人に知らせず、主人知りても詮方なき故一切のものをかけに整ふる、

新字:右に云ひたる如く自由便当なる御城下なる故、金さへあれば如何ほど火急なることも皆な間に合ふなり、其火急なるに乗して利を取んと商人共物を俄かに高直にすれとも、兎角間を合はせねばならぬこと故構はず、買調へて間を合はすること当時武家の風俗と成こと、左様に急なることにてなきをも何事も〳〵兼て心掛け支度することはなし、譬へは出掛て衣服を調ふるに袴の括り緒なし、足皮切れたりとて急に中間を走らかして町にて買立つる故高直なるを買ひ来りても其の頓着なく間に合ひたりと悦ふ、明日の出仕に下々の合羽見苦しと夜に成りて云へば、急に人を走らかして買ひ調ふるたくひ、何もかも急に弁ずるゆゑ事々に付物入り云ふはかりなし、間に合はねは主人以の外不機嫌になる故女房「をとな」なと相談して質を置きて間を合はせ主人に知らせず、主人知りても詮方なき故一切のものをかけに整ふる、

書き下し

右に云ひたる如く自由便当なる御城下なる故、金さへあれば如何ほど火急なることも皆な間に合ふなり、其火急なるに乗して利を取んと商人共物を俄かに高直にすれとも、兎角間を合はせねばならぬこと故構はず、買調へて間を合はすること当時武家の風俗と成こと、左様に急なることにてなきをも何事も〳〵兼て心掛け支度することはなし、譬へは出掛て衣服を調ふるに袴の括り緒なし、足皮切れたりとて急に中間を走らかして町にて買立つる故高直なるを買ひ来りても其の頓着なく間に合ひたりと悦ふ、明日の出仕に下々の合羽見苦しと夜に成りて云へば、急に人を走らかして買ひ調ふるたくひ、何もかも急に弁ずるゆゑ事々に付物入り云ふはかりなし、間に合はねは主人以の外不機嫌になる故女房「をとな」なと相談して質を置きて間を合はせ主人に知らせず、主人知りても詮方なき故一切のものをかけに整ふる、

現代語訳

前に言ったように、自由で便利な御城下なので、金さえあれば、どれほど火急なことでもみな間に合うからである。その火急に乗じて利を取ろうと、商人どもが物を急に高値にしても、とにかく間に合わせなければならないので構わず買い整えて間に合わせることが、今の武家の風俗となった。そのように急なことでないことも、何事につけ、かねて心掛けて支度することはない。たとえば出かける段になって衣服を整えると、袴のくくり緒がない、足袋が切れたといって、急に中間(召使い)を走らせて町で買い立てるので、高値のものを買ってきても頓着せず、間に合ったと喜ぶ。明日の出仕に下々の者の合羽が見苦しいと夜になって言えば、急に人を走らせて買い整える類いで、何もかも急に用を足すので、事ごとに出費は言いようもない。間に合わなければ主人がことのほか不機嫌になるので、女房や「おとな」(家老役の家来)などが相談して質を置いて間に合わせ、主人には知らせない。主人が知っても仕方がないので、一切のものを掛け(つけ買い)で整える。

解説

急な命令に間に合わせられるのは、金さえあれば何でも手に入る江戸だからだ、と徂徠は見抜く。商人はその急ぎに乗じて値をつり上げ、武家は高値を承知で買う。袴の緒や足袋、家来の合羽まで、前日や当日になって慌てて買う暮らしが、出費を膨らませる。主人の不機嫌を恐れた家中が質入れやつけ買いで取り繕う様子は、悪い知らせが上に届かない組織の縮図でもある。急ぎの調達は割高になるという当たり前の理を、段取りの悪さの費用として数えてみたい。

この章句が説くこと

段取り物価商人城下風俗家計

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