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政談 / 浪人並に道心者締り等の事

右の如く戶籍の法を立つるとき、人の品樣々あるによりて差支あるべし、浪人と云ふもの元來は武家に奉公して、其の主人の人別にむすひこれあるところ、いま夫を離れぬれば有付くまでは何れの町村にありとも離れものにて、全躰旅人の心なり、左れども歸るべき鄕里もなければとも申し難し、たゞ浪人と立てゝ何方に在りとも店賃のさばきなるべし、親類近付の請判にて差置くこと、別に當時の仕方と替りあるまじ、道心者と申すもの頭も之なく締りなき者なり、されども是亦精くは孤獨のたぐひにて、畢竟究民のなるものなれば詮方もなし、剃髪の師の付け屆けを以て之も常の店持同然なるべし、寺方の隱居旅僧のたぐひは寺社門前に限り差置くべきなり、

新字:右の如く戸籍の法を立つるとき、人の品様々あるによりて差支あるべし、浪人と云ふもの元来は武家に奉公して、其の主人の人別にむすひこれあるところ、いま夫を離れぬれば有付くまでは何れの町村にありとも離れものにて、全体旅人の心なり、左れども帰るべき郷里もなければとも申し難し、たゞ浪人と立てゝ何方に在りとも店賃のさばきなるべし、親類近付の請判にて差置くこと、別に当時の仕方と替りあるまじ、道心者と申すもの頭も之なく締りなき者なり、されども是亦精くは孤独のたぐひにて、畢竟究民のなるものなれば詮方もなし、剃髪の師の付け届けを以て之も常の店持同然なるべし、寺方の隠居旅僧のたぐひは寺社門前に限り差置くべきなり、

書き下し

右の如く戸籍の法を立つるとき、人の品様々あるによりて差支あるべし、浪人と云ふもの元来は武家に奉公して、其の主人の人別にむすひこれあるところ、いま夫を離れぬれば有付くまでは何れの町村にありとも離れものにて、全体旅人の心なり、左れども帰るべき郷里もなければとも申し難し、たゞ浪人と立てゝ何方に在りとも店賃のさばきなるべし、親類近付の請判にて差置くこと、別に当時の仕方と替りあるまじ、道心者と申すもの頭も之なく締りなき者なり、されども是亦精くは孤独のたぐひにて、畢竟究民のなるものなれば詮方もなし、剃髪の師の付け届けを以て之も常の店持同然なるべし、寺方の隠居旅僧のたぐひは寺社門前に限り差置くべきなり、

現代語訳

前に述べたように戸籍の法を立てると、人の身分や在り方はさまざまなので差し支えが出てくるだろう。浪人というものは、もともと武家に奉公していて、その主人の人別(戸籍の帳簿)に結び付けられていた者である。いまそこを離れてしまえば、次の奉公先が決まるまでは、どの町村にいようと宙に浮いた者であり、全体として旅人の心持ちである。しかし帰るべき郷里もないので、旅人とも言い切れない。ただ「浪人」として立て、どこに住んでいても店賃(家賃)で裁く扱いにすればよい。親類や知人の請判(保証の判)で住まわせることは、別に今のやり方と変わることはあるまい。道心者(俗人のまま出家同様に暮らす者)というものは、束ねる頭もなく、取り締まりのない者である。けれどもこれも詳しく見れば身寄りのない孤独の類いで、結局は窮民となる者なので、致し方もない。剃髪してくれた師の届け出によって、これも普通の店持ち(借家住まいの者)と同じ扱いにすればよい。寺方の隠居や旅の僧の類いは、寺社の門前に限って住まわせるべきである。

解説

戸籍の法を全国に敷くとき、どこにも属さない人をどう扱うかを詰めた条である。徂徠は浪人を「旅人の心」と見つつ、帰る郷里もないので家賃の契約と保証人で町に置けばよいとし、道心者も剃髪の師の届けで普通の借家人と同じに扱えとする。制度の網から漏れる人を例外として放置せず、既存の仕組みのどこかに必ず結び付けるという発想である。組織でも、所属の曖昧な人や兼務者を宙に浮かせると管理も支援も届かない。全員がどこかの帳簿に載っているかを点検する意味は今も変わらない。

この章句が説くこと

戸籍浪人制度所属管理政談

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