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政談 / 出替り奉公人の締りの事

昔は法未熟なれとも武風盛なる故當時の如くは無かりしを、世次第に移りゆきて風俗かはり武風薄くなりたる故、古の如く不埓の次第なりとて今さら武風を烈しく昔しのことくせんとしたりとも太平久しければ諸事の釣合ひむかしにたがひたる故、むかしに返へるべきにあらず、かへりて治めの害となるべし、殊に昔しとても法未熟なる故行き屆かざることゝもなり、當時の仕方は治めの根本にかへり、矢張柔かなる風俗の上にて古を考へ法を立て直すに如くはなし、治めの根本にかへりて法を立て直すと云は、三代の古も異國の近世も又我が國の古も治めの根本は兎角人を地に付るやうにすること是治めの根本なり、人を地に付たる仕方と云ふは戶籍路引の二つなり、是にて世界の紛れものなどのみならず、これにて世界の人にしめくゝりを付たる故、世界の萬民悉く上の御手に入りて上の御心儘になる仕方なり、この仕方なき時は日本國中の人をうちゝらしに仕置きて、心儘にめん々こうにはたらかする故、悉く上の御手には入らぬことなり、されは世界の萬民を手に入るゝと手に入れざるとはちかひはこれある故これ治めの根本なりと知るべし、

新字:昔は法未熟なれとも武風盛なる故当時の如くは無かりしを、世次第に移りゆきて風俗かはり武風薄くなりたる故、古の如く不埓の次第なりとて今さら武風を烈しく昔しのことくせんとしたりとも太平久しければ諸事の釣合ひむかしにたがひたる故、むかしに返へるべきにあらず、かへりて治めの害となるべし、殊に昔しとても法未熟なる故行き届かざることゝもなり、当時の仕方は治めの根本にかへり、矢張柔かなる風俗の上にて古を考へ法を立て直すに如くはなし、治めの根本にかへりて法を立て直すと云は、三代の古も異国の近世も又我が国の古も治めの根本は兎角人を地に付るやうにすること是治めの根本なり、人を地に付たる仕方と云ふは戸籍路引の二つなり、是にて世界の紛れものなどのみならず、これにて世界の人にしめくゝりを付たる故、世界の万民悉く上の御手に入りて上の御心儘になる仕方なり、この仕方なき時は日本国中の人をうちゝらしに仕置きて、心儘にめん々こうにはたらかする故、悉く上の御手には入らぬことなり、されは世界の万民を手に入るゝと手に入れざるとはちかひはこれある故これ治めの根本なりと知るべし、

書き下し

昔は法未熟なれとも武風盛なる故当時の如くは無かりしを、世次第に移りゆきて風俗かはり武風薄くなりたる故、古の如く不埓の次第なりとて今さら武風を烈しく昔しのことくせんとしたりとも太平久しければ諸事の釣合ひむかしにたがひたる故、むかしに返へるべきにあらず、かへりて治めの害となるべし、殊に昔しとても法未熟なる故行き届かざることゝもなり、当時の仕方は治めの根本にかへり、矢張柔かなる風俗の上にて古を考へ法を立て直すに如くはなし、治めの根本にかへりて法を立て直すと云は、三代の古も異国の近世も又我が国の古も治めの根本は兎角人を地に付るやうにすること是治めの根本なり、人を地に付たる仕方と云ふは戸籍路引の二つなり、是にて世界の紛れものなどのみならず、これにて世界の人にしめくゝりを付たる故、世界の万民悉く上の御手に入りて上の御心儘になる仕方なり、この仕方なき時は日本国中の人をうちゝらしに仕置きて、心儘にめん々こうにはたらかする故、悉く上の御手には入らぬことなり、されは世界の万民を手に入るゝと手に入れざるとはちかひはこれある故これ治めの根本なりと知るべし、

現代語訳

昔は法は未熟であったが、武風が盛んであったので今のようではなかったのに、世がしだいに移り変わって風俗が変わり、武風が薄くなったので、昔のようでなく不埒なありさまだといって、今さら武風を烈しく昔のようにしようとしても、太平が久しいので諸事の釣り合いが昔と違っているのだから、昔に返れるものではない。かえって治めの害となるだろう。ことに昔とても法が未熟なので行き届かなかったこともあった。今のやり方としては、治めの根本に返り、やはり柔らかな風俗のうえで古を考えて法を立て直すにこしたことはない。治めの根本に返って法を立て直すというのは、三代(夏・殷・周)の古も、異国の近世も、またわが国の古も、治めの根本はとにかく人を土地に付けるようにすることであり、これが治めの根本である。人を土地に付けるやり方というのは、戸籍と路引(旅の通行証)の二つである。これによって世の中の紛れ者などばかりでなく、世の中の人に締めくくりをつけるので、世の中の万民がことごとくお上の手に入って、お上の御心のままになるやり方である。このやり方がないときは、日本国中の人をばらばらに散らしておいて、心のままに各自勝手に働かせるので、ことごとくお上の手には入らないのである。だから世の中の万民を手に入れるか入れないかの違いがあるので、これが治めの根本であると知るべきである。

解説

ここで政談の中心命題が明示される。武風が薄れたからといって昔の烈しさを取り戻そうとしても、太平の世では釣り合いが違い、かえって害になる。柔らかな今の風俗を前提に、古を考えて法を立て直すべきだという。その根本が「人を地に付ける」こと、具体的には戸籍と路引である。精神論で昔に戻すのでなく、今の人間を前提に制度で治めるという徂徠の態度がよく表れている。組織の気風が緩んだとき、創業期の熱気を号令で取り戻そうとするより、今の人に合う仕組みを作るほうが確かなのである。

この章句が説くこと

治め根本戸籍路引土着制度

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