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論語と算盤 / 成敗と運命・細心にして大胆なれ

近頃青年の間に新しい活気が勃興し、大に其の本領を発揮せんとする傾向を生じたのは、即ち慶賀すべきことなるが、壮年社会に不活潑の傾向が依然として瀰蔓するやうでは、憂ふべき事と言はねばならぬ、独立不覊の精神を発揮するには、今日の如く政府万能の状態で、民間の事業が政府の保護に恋々たる状の見える如き風を一掃し、鋭意民力を伸張して、政府を煩はさないで事業を発展せしむる覚悟が必要である、又細事に拘泥し部局の事にのみ没頭する結果、法律規則の類を増発し、汲々として其の規定に触れまいとし、或は其の規定内の事に満足し、齷齪して居るやうでは、迚も新進の事業を経営し、潑溂たる生気を生じ、世界の大勢に駕することは覚束ない。

新字:近頃青年の間に新しい活気が勃興し、大に其の本領を発揮せんとする傾向を生じたのは、即ち慶賀すべきことなるが、壮年社会に不活溌の傾向が依然として瀰蔓するやうでは、憂ふべき事と言はねばならぬ、独立不覊の精神を発揮するには、今日の如く政府万能の状態で、民間の事業が政府の保護に恋々たる状の見える如き風を一掃し、鋭意民力を伸張して、政府を煩はさないで事業を発展せしむる覚悟が必要である、又細事に拘泥し部局の事にのみ没頭する結果、法律規則の類を増発し、汲々として其の規定に触れまいとし、或は其の規定内の事に満足し、齷齪して居るやうでは、迚も新進の事業を経営し、溌溂たる生気を生じ、世界の大勢に駕することは覚束ない。

書き下し

近頃青年の間に新しい活気が勃興し、大いにその本領を発揮せんとする傾向を生じたのは、すなわち慶賀すべきことなるが、壮年社会に不活溌の傾向が依然として瀰蔓するようでは、憂うべき事と言わねばならぬ。独立不羈の精神を発揮するには、今日のごとく政府万能の状態で、民間の事業が政府の保護に恋々たる状の見えるごとき風を一掃し、鋭意民力を伸張して、政府を煩わさないで事業を発展せしむる覚悟が必要である。また細事に拘泥し部局の事にのみ没頭する結果、法律規則の類を増発し、汲々としてその規定に触れまいとし、あるいはその規定内の事に満足し、齷齪しているようでは、とても新進の事業を経営し、溌溂たる生気を生じ、世界の大勢に駕することは覚束ない。

現代語訳

近ごろ青年の間に新しい活気が起こり、大いにその本領を発揮しようとする傾向が生じたのは、まことに喜ばしいことであるが、壮年の社会に不活発な傾向が依然として広がっているようでは、憂うべきことと言わなければならない。独立して何者にも縛られない精神を発揮するには、今日のような政府万能の状態で、民間の事業が政府の保護に未練がましくすがっている様子が見えるような風潮を一掃し、ひたすら民間の力を伸ばして、政府の手を煩わせずに事業を発展させる覚悟が必要である。また、細かいことにこだわり、自分の部局のことばかりに没頭する結果、法律や規則の類をむやみに増やし、その規定に触れまいと汲々とし、あるいは規定の範囲内のことで満足してこせこせしているようでは、とても新しい事業を経営し、溌溂とした生気を生み、世界の大勢を乗りこなすことはおぼつかない。

解説

渋沢は青年の活気を喜びつつ、壮年社会の不活発を憂える。そして独立不羈の精神を阻むものを二つ挙げる。一つは政府万能の風潮で、民間事業が政府の保護に恋々とすがる姿勢である。もう一つは、細事にこだわって部局の事ばかりに没頭し、法律規則を増やしては規定に触れまいと汲々とし、規定内のことで満足する姿勢である。前者は官と民の関係、後者は組織の内側の病理を指している。明治の殖産興業が官営事業と政府の保護から始まった経緯を考えれば、民間が自立できるかどうかは当時の切実な課題であった。後者の指摘は、今日で言えば縦割りや規則主義、前例踏襲の問題そのものである。ルールを守ることが仕事の目的にすり替わると、新しい事業は生まれない。百年以上前の指摘が今も通じるのは、組織が成熟すれば同じ病に陥るからだろう。

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