論語と算盤 / 成敗と運命・細心にして大胆なれ
また余りに堅苦しく物事に拘泥し、細事に没頭する時は、自然に潑溂たる気力を銷磨し、進取の勇気を挫くことになるのであるから、此点も深く注意せねばならぬ、元より細心周到なる努力は必要であるが、一方大胆なる気力を発揮して、細心大胆両者相竢ち、潑溂たる活動をなし、始めて大事業を完成し得るものであるから、近来の傾向に就ては、大に警戒せねばならぬ
書き下し
また余りに堅苦しく物事に拘泥し、細事に没頭する時は、自然に溌溂たる気力を銷磨し、進取の勇気を挫くことになるのであるから、この点も深く注意せねばならぬ。もとより細心周到なる努力は必要であるが、一方大胆なる気力を発揮して、細心大胆両者相待ち、溌溂たる活動をなし、始めて大事業を完成し得るものであるから、近来の傾向については、大いに警戒せねばならぬ。
現代語訳
また、あまりに堅苦しく物事にこだわり、細かいことに没頭していると、自然に溌溂とした気力が磨り減り、前へ出る勇気を挫くことになる。この点も深く注意しなければならない。もとより細心で周到な努力は必要である。だが一方で大胆な気力を発揮し、細心と大胆の両方が相まって溌溂と活動してこそ、初めて大事業を完成できるのだから、近ごろの傾向については大いに警戒しなければならない。
解説
社会の秩序が整うほど新しいことは始めにくくなり、保守に傾く——渋沢はその力学を見ていた。だからこの章は、慎重さそのものへの警告になっている。大事を考えすぎて因循になり、失敗を恐れて逡巡する気力では国運は退く、と。処方は二つ挙げられる。一つは独立独歩。人に依存しすぎると自信が育たず、因循卑屈の性が身につく。もう一つがこの一段で、細心と大胆を両方持てということだ。彼が具体的に挙げる病理は現代にも通じる。政府の保護を当てにする民間、規則を増やして触れないことに汲々とする組織——そこからは溌溂とした生気は生まれない、と。
この章句が説くこと
細心にして大胆なれ独立独歩因循姑息進取の気力