論語と算盤 / 実業と士道・相愛忠恕の道を以て交はるべし
之に就き先づ試みるべきは開拓事業であつて、即ち支那の富源を拓き天与の宝庫を展開して、其の国富を増進せしむるに在る、而して之が経営の方法は、両国民の共同出資に依る合弁事業となすが最良法である、独り開拓事業に止まらず、其他の事業に於ても亦その組織は日支合弁事業とするのである、斯くするに於ては日支間に緊密なる経済的連鎖を生じ、従つて両国間に真個の提携を為し得るのである、余の関係せる中日実業会社は、此の意味に於て発起設立せられたるものにて、其の成功を期せんとする所以も亦此に存するのである。
書き下し
これについてまず試みるべきは開拓事業であって、すなわち支那の富源を拓き天与の宝庫を展開して、その国富を増進せしむるにある。そしてこれが経営の方法は、両国民の共同出資による合弁事業となすが最良法である。ひとり開拓事業にとどまらず、その他の事業においてもまたその組織は日支合弁事業とするのである。かくするにおいては日支間に緊密なる経済的連鎖を生じ、したがって両国間に真個の提携をなし得るのである。余の関係せる中日実業会社は、この意味において発起設立せられたるものにて、その成功を期せんとする所以もまたここに存するのである。
現代語訳
これについてまず試みるべきは開拓事業であって、つまり中国の資源を切り開き、天から与えられた宝庫を広げて、その国の富を増やすことにある。そしてその経営の方法は、両国民の共同出資による合弁事業とするのが最良である。開拓事業に限らず、そのほかの事業においても、組織は日中の合弁事業とするのである。こうすれば日中の間に緊密な経済的なつながりが生まれ、したがって両国の間に真の提携を実現できるのである。私が関わっている中日実業会社は、この意味で発起し設立されたものであって、その成功を期している理由もまたここにある。
解説
関連する章句
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『論語と算盤』実業と士道・相愛忠恕の道を以て交はるべし商業の真個の目的が有無相通じ、自他相利するにあるごとく、殖利生産の事業も道徳と随伴して、初めて真正の目的を達するものなりとは、余の平素の持論にして、我が国が支那の事業に関係するに際しても、忠恕の念をもってこれに臨み、自国の利益を図るはもちろんながら、併せて支那をも利益する方法に出ずるにおいては、日支間に真個提携の実を挙ぐることは、決して難い事ではない。
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『論語と算盤』実業と士道・相愛忠恕の道を以て交はるべし日支間は同文同種の関係あり。国の隣接せる位置よりするも、はたまた古来よりの歴史よりいうも、また思想、風俗、趣味の共通せる点あるに徴するも、相提携せざるべからざる国柄なり。然らばいかにして提携の実を挙ぐべきか。その方策他なし。人情を理解し、己の欲せざる所はこれを人に施さず、いわゆる相愛忠恕の道をもって相交わるにあり。すなわちその方策は論語の一章にありと謂うべきである。
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『論語と算盤』実業と士道・文明人の貪戻吾人はすべからく進んで支那の富源を開発し、その産業を進め、その販路を拡めて、通商上の利益を増加するように心掛けねばならぬ。我が国民の今日まで支那に対する商工業経営の態度を見るに、とかく個々別々であって、その間に少しも聯絡がない。ドイツの政治経済機関が統一して密接な関係を保っているのを見るにつけても、我が国民がこの歴史的においても、はたまた人種的においても、幾多の便宜を有する国柄なるにかかわらず、彼らの後えに瞠若たるようではならぬ。そしてこの覚悟は特に我が青年に対して最も望ましき所である。どうか今日の青年諸氏はかかる所に注目して力を入れてもらいたいのである。
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『論語と算盤』処世と信条・論語と算盤は甚だ遠くして甚だ近いものこれはすなわち物を増殖する務めである。これが完全でなければ国の富はなさぬ。その富をなす根源は何かといえば、仁義道徳、正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することが出来ぬ。ここにおいて論語と算盤という懸け離れたものを一致せしめる事が、今日の緊要の務めと自分は考えているのである。
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『論語と算盤』算盤と権利・合理的の経営それから余が事業上の見解としては、一個人に利益ある仕事よりも、多数社会を益して行くのでなければならぬと思い、多数社会に利益を与えるには、その事業が堅固に発達して繁昌して行かなくてはならぬということを常に心にしていた。福沢翁の言に「書物を著しても、それを多数の者が読むようなものでなくては効能が薄い、著者は常に自己のことよりも国家社会を利するという観念をもって筆を執らなければならぬ」という意味のことがあったと記憶している。事業界のこともまたこの理にほかならぬもので、多く社会を益することでなくては正径な事業とは言われない。仮りに一個人のみ大富豪になっても、社会の多数がために貧困に陥るような事業であったならばいかがなものであろうか。いかにその人が富を積んでも、その幸福は継続されないではないか。ゆえに国家多数の富を致す方法でなければいかぬというのである。
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『論語と算盤』処世と信条・論語は万人共通の実用的教訓明治六年官を辞して、年来の希望なる実業に入ることになってから、論語に対して特別の関係が出来た。それは始めて商売人になるという時、ふと心に感じたのは、これからはいよいよ銖錙の利もて世渡りをしなければならぬが、志をいかに持つべきかについて考えた。その時前に習った論語のことを思い出したのである。論語には己を修め人に交わる日常の教えが説いてある。論語は最も欠点の少ない教訓であるが、この論語で商売は出来まいかと考えた。そして私は論語の教訓に従って商売し、利殖を図ることが出来ると考えたのである。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
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