論語と算盤 / 算盤と権利・唯王道あるのみ
果して両者が斯うなつて了へば、権利義務の観念の如きは、徒らに両者の感情を疎隔せしむる外、殆んど何等の効果なきものと言うて宜からう、余が往年欧米漫遊の際実見した独逸の「クルツプ」会社の如き、又米国「ボストン」附近の「ウオルサム」時計会社の如き、其の組織が極めて家族的であつて、両者の間に和気靄然たるを見て頗る歎称を禁じ得なかつた、これぞ余が謂ゆる王道の円熟したるもので、斯うなれば法の制定をして幸に空文に終らしむるのである、果して此の如くなるを得ば、労働問題も何等意に介するに足らぬではないか。
新字:果して両者が斯うなつて了へば、権利義務の観念の如きは、徒らに両者の感情を疎隔せしむる外、殆んど何等の効果なきものと言うて宜からう、余が往年欧米漫遊の際実見した独逸の「クルツプ」会社の如き、又米国「ボストン」附近の「ウオルサム」時計会社の如き、其の組織が極めて家族的であつて、両者の間に和気靄然たるを見て頗る嘆称を禁じ得なかつた、これぞ余が謂ゆる王道の円熟したるもので、斯うなれば法の制定をして幸に空文に終らしむるのである、果して此の如くなるを得ば、労働問題も何等意に介するに足らぬではないか。
書き下し
果たして両者がこうなってしまえば、権利義務の観念のごときは、いたずらに両者の感情を疎隔せしむるほか、ほとんど何らの効果なきものと言うてよかろう。余が往年欧米漫遊の際実見したドイツのクルップ会社のごとき、また米国ボストン附近のウォルサム時計会社のごとき、その組織が極めて家族的であって、両者の間に和気靄然たるを見てすこぶる歎称を禁じ得なかった。これぞ余がいわゆる王道の円熟したるもので、こうなれば法の制定をして幸いに空文に終わらしむるのである。果たしてかくのごとくなるを得ば、労働問題も何ら意に介するに足らぬではないか。
現代語訳
もし両者がこのようになってしまえば、権利義務の観念などというものは、いたずらに両者の感情を疎遠にさせるほかは、ほとんど何の効果もないものと言ってよいだろう。私がかつて欧米を旅行したときに実際に見た、ドイツのクルップ社や、アメリカのボストン近郊のウォルサム時計会社などは、その組織がきわめて家族的であって、両者のあいだに和やかな空気が満ちているのを見て、大いに感嘆せずにはいられなかった。これこそ私の言う王道が円熟したものであって、こうなれば、法律の制定を幸いにも空文に終わらせることができる。もしこのようになることができれば、労働問題もまったく気にかけるに足りないではないか。
解説
関連する章句
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『論語と算盤』算盤と権利・唯王道あるのみもしそれ富豪も貧民も王道をもって立ち、王道はすなわち人間行為の定規であるという考えをもって世に処するならば、百の法文、千の規則あるよりも遥かに勝ったことと思う。換言すれば、資本家は王道をもって労働者に対し、労働者もまた王道をもって資本家に対し、その関係しつつある事業の利害得失はすなわち両者に共通なる所以を悟り、相互に同情をもって始終するの心掛けありてこそ、始めて真の調和を得られるのである。
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