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論語と算盤 / 立志と学問・社会と学問との関係

元来人情の通弊として、兎角に功を急ぎ大局を忘れて、勢ひ事物に拘泥し、僅かな成功に満足するかと思へば、左程でもない失敗に落胆する者が多い、学校卒業生が社会の実務を軽視し、実際上の問題を誤解するのも、多くは此の為である、是非とも此の誤れる考は改めねばならぬが、其の参考として学問と社会との関係を考察すべき例を挙げると、

書き下し

元来人情の通弊として、とかくに功を急ぎ大局を忘れて、勢い事物に拘泥し、わずかな成功に満足するかと思えば、さほどでもない失敗に落胆する者が多い。学校卒業生が社会の実務を軽視し、実際上の問題を誤解するのも、多くはこのためである。ぜひともこの誤れる考えは改めねばならぬが、その参考として学問と社会との関係を考察すべき例を挙げると。

現代語訳

もともと人情によくある弊害として、とかく功を急いで大局を忘れ、勢い目先の物事にこだわり、わずかな成功に満足するかと思えば、それほどでもない失敗に落胆する者が多い。学校の卒業生が社会の実務を軽んじ、実際の問題を誤解するのも、多くはこのためである。ぜひともこの誤った考えは改めなければならないが、その参考として、学問と社会との関係を考えるべき例を挙げると、次のようなものである。

解説

学校出の若者が現場でつまずく理由を、渋沢は人情の通弊として説明する。功を急ぎ、大局を忘れ、目先の物事に拘泥する。すると小さな成功に満足し、大したことのない失敗に落胆する。喜びも落胆も、大局を見失った同じ病から出ている、という見立てが鋭い。卒業生が実務を軽視するのも、実際の問題を誤解するのも、多くはこのためだと言う。明治後期から大正にかけて、官立・私立の学校から大勢の卒業生が実業界へ入るようになり、学歴を頼んで現場を侮る者と、現場で自信を失う者の双方が目についた。渋沢はこの両方を一つの原因で説明し、次に地図と実地の比喩へ進む。小さな成否に一喜一憂する人ほど、実は大きな目標を見失っている。成果を短期で測りがちな今の職場にも通じる戒めである。

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