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論語と算盤 / 立志と学問・君子の争ひたれ

私も絶対に争ひをせぬ人間であるかのやうに解せらる〻人も、世間に少なからぬやうに見受けるが、私は勿論、好んで他人と争ふことこそせざれ、全く争ひをせぬといふではない、

書き下し

私も絶対に争いをせぬ人間であるかのように解せらるる人も、世間に少なからぬように見受けるが、私はもちろん、好んで他人と争うことこそせざれ、全く争いをせぬというではない。

現代語訳

私のことを、絶対に争いをしない人間であるかのように受け取っている人も、世間には少なくないように見受けられる。しかし私は、もちろん好んで他人と争うことこそしないが、まったく争いをしないというわけではない。

解説

「君子の争ひたれ」の章の書き出しである。章の題は『論語』八佾篇の「君子は争ふ所無し」に続く「其の争ひや君子なり」を踏まえ、君子であっても争うべき時は争え、という意味を込めたものと読める。渋沢は世間で、争いを好まない温厚な調停役と見られていた。数多くの会社の設立に関わり、利害の対立する人々の間に立ってまとめる役を長く務めたからである。その自分について、好んで争いはしないが、争わないわけではない、とまず断る。温厚という評判を受け入れながら、それが全部ではないと言うのである。争いを避けることと、争いを好まないことは違う。後者は品性だが、前者は時に怠慢になる。この短い一句は、以下に続く「円満」批判の予告になっている。

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