導師導古典を学びたいすべての人に

論語と算盤 / 立志と学問・君子の争ひたれ

併しその出納局長なる男は、毫も私の言に耳を仮さぬのみか、二言三言言ひ争つた末、満面は恰かも朱を注げる如く紅くなつて、直ちに拳固を揮上げ、私を目蒐けて打つて掛つて来たのである。

書き下し

しかしその出納局長なる男は、ごうも私の言に耳を貸さぬのみか、二言三言言い争った末、満面はあたかも朱を注げるごとく紅くなって、直ちに拳固を振り上げ、私を目がけて打ってかかって来たのである。

現代語訳

しかしその出納局長という男は、少しも私の言葉に耳を貸さないばかりか、二言三言言い争ったあげく、顔じゅうがまるで朱を注いだように真っ赤になって、いきなり拳を振り上げ、私をめがけて殴りかかってきたのである。

解説

議論が尽きたところで、相手は腕力に訴えた。顔が朱を注いだように赤くなり、拳固を振り上げる。短い一段だが、描写は生々しい。渋沢が前段で丁寧に説いたことは、相手には届かなかった。理を尽くしても通じない相手がいる、という現実を、渋沢は隠さずに書いている。君子の争いは、相手も理で応じるなら議論で決着がつく。しかし相手が理の外に出たとき、こちらはどうするか。それがこの章の本当の問いである。ここで拳に拳で応じれば、正しかったはずの改革も、役所内の喧嘩として片づけられてしまう。逃げれば、改革そのものが暴力に屈したことになる。応じても退いても負けという局面で、渋沢がどう振る舞ったかが次の段で語られる。対立が感情の爆発に変わった瞬間こそ、人の器が試されるのである。

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る