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驢鞍橋 / 卷中

第一、生死を守る心と云ふは、此の生と云ふものは、何の用にも立たぬ物哉。扨て扨ていやなわるい物哉とよく知り、扨て死は隙の明きたよき物なりと知り、只今必す死すと眼を著け齒をかんで、ぐつと死して直に死習ふ心也。第二、恩を知る心。四恩といへ共、武士は主の恩を能く知るへし。總して恩をしらぬ故に不義多し。實に恩を知る則は、眞の心となる也。第三、一陣に進む心と云ふは、千騎萬騎の中へ、只一人つゝとかけこむ心を守る事也。第四、因果の理を知る心と云ふは、萬事因果次第よと思ひ定むれは、娑婆の望もなく心樂也。又命を取らるゝ程の事來るとも知らなんだが、我に此の因果こそ有りつらんと思ひ定めは、苦む事有るべからす。又人を恨むる事も有るへからず。人每に此の因果の道理はしらせ度也。是れを守る則は、大に苦を免るゝ事也。

新字:第一、生死を守る心と云ふは、此の生と云ふものは、何の用にも立たぬ物哉。扨て扨ていやなわるい物哉とよく知り、扨て死は隙の明きたよき物なりと知り、只今必す死すと眼を著け歯をかんで、ぐつと死して直に死習ふ心也。第二、恩を知る心。四恩といへ共、武士は主の恩を能く知るへし。総して恩をしらぬ故に不義多し。実に恩を知る則は、真の心となる也。第三、一陣に進む心と云ふは、千騎万騎の中へ、只一人つゝとかけこむ心を守る事也。第四、因果の理を知る心と云ふは、万事因果次第よと思ひ定むれは、娑婆の望もなく心楽也。又命を取らるゝ程の事来るとも知らなんだが、我に此の因果こそ有りつらんと思ひ定めは、苦む事有るべからす。又人を恨むる事も有るへからず。人毎に此の因果の道理はしらせ度也。是れを守る則は、大に苦を免るゝ事也。

書き下し

第一、生死を守る心と云ふは、此の生と云ふものは、何の用にも立たぬ物哉。扨て扨ていやなわるい物哉とよく知り、扨て死は隙の明きたよき物なりと知り、只今必す死すと眼を著け歯をかんで、ぐつと死して直に死習ふ心也。第二、恩を知る心。四恩といへ共、武士は主の恩を能く知るへし。総して恩をしらぬ故に不義多し。実に恩を知る則は、真の心となる也。第三、一陣に進む心と云ふは、千騎万騎の中へ、只一人つゝとかけこむ心を守る事也。第四、因果の理を知る心と云ふは、万事因果次第よと思ひ定むれは、娑婆の望もなく心楽也。又命を取らるゝ程の事来るとも知らなんだが、我に此の因果こそ有りつらんと思ひ定めは、苦む事有るべからす。又人を恨むる事も有るへからず。人毎に此の因果の道理はしらせ度也。是れを守る則は、大に苦を免るゝ事也。

現代語訳

第一、「生死を守る心」というのは、この生というものは何の役にも立たないものだ、さてもさても嫌な悪いものだとよく知り、さて死は暇の明いたよいものだと知り、今必ず死ぬと眼を据え歯をかんで、ぐっと死んで、そのまま死に習う心である。第二、「恩を知る心」。四恩というけれども、武士は主君の恩をよく知りなさい。総じて恩を知らないから不義が多い。本当に恩を知れば、真の心となる。第三、「一陣に進む心」というのは、千騎万騎の中へただ一人つっと駆け込む心を守ることである。第四、「因果の理を知る心」というのは、万事は因果しだいだと思い定めれば、娑婆への望みもなく心は楽である。また命を取られるほどのことが来ても、知らなかったが自分にはこの因果があったのだろうと思い定めれば、苦しむことはない。また人を恨むこともない。誰にでもこの因果の道理は知らせたいものだ。これを守れば、大いに苦しみを免れる。

解説

『四民日用』の武士の段に挙げた十七の心の、第一から第四までの解説である。今すぐ死ぬと覚悟して死に習う心、主君の恩を知る心、一人で敵陣に駆け込む心、万事を因果と受け止める心が並ぶ。とくに因果の心は、災難が来ても人を恨まず苦しまずに済む知恵である。正三は、これを誰にでも知らせたいと言う。覚悟、恩義、突進、受容という四つの構えは、責任ある立場で難局に向き合う人の支えになるだろう。

この章句が説くこと

四民武士因果恩死に習う覚悟

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