驢鞍橋 / 卷中
下シテあら苦し目まひや。胸くるしやとかなしみて。一夜をまたで死したりし。深草の少將の。怨念のつきそひて。一度物には狂ひけるろや。下同是を菩提のたねとして。眞の道に入りしより。無明深夜の夢さめて。世々の悅ひきはまれり。三界火宅の內を出て。迷悟凡聖一筋に。大道廣く行かうよ行かうよ
新字:下シテあら苦し目まひや。胸くるしやとかなしみて。一夜をまたで死したりし。深草の少将の。怨念のつきそひて。一度物には狂ひけるろや。下同是を菩提のたねとして。真の道に入りしより。無明深夜の夢さめて。世々の悦ひきはまれり。三界火宅の内を出て。迷悟凡聖一筋に。大道広く行かうよ行かうよ
書き下し
下シテあら苦し目まひや。胸くるしやとかなしみて。一夜をまたで死したりし。深草の少将の。怨念のつきそひて。一度物には狂ひけるろや。下同是を菩提のたねとして。真の道に入りしより。無明深夜の夢さめて。世々の悦ひきはまれり。三界火宅の内を出て。迷悟凡聖一筋に。大道広く行かうよ行かうよ
現代語訳
(下・シテ)ああ苦しい、目まいがする、胸が苦しいと悲しんで、あと一夜を待たずに死んでしまった深草の少将の怨念が付き添って、ひとたびは物に狂ったのであった。(下・同)これを菩提の種として、真の道に入ってからは、無明の深い夜の夢も覚めて、世々の喜びはきわまった。三界の火宅の内を出て、迷いも悟りも凡夫も聖者も一筋に、大道を広々と行こうよ、行こうよ。
解説
百夜通いの九十九夜目に少将が息絶え、その怨念が付き添ったために小町は一度は狂ったと語られる。しかしこの曲の結末では、その苦しみを菩提の種として真の道に入り、無明の夢が覚めたと歌い上げる。正三は前条で、もとの結末の悟りの道に入ろうよという言い方が小町を凡夫に戻すと批判しており、ここでは迷悟凡聖を一筋にして大道を行こうという、悟った人の言葉に改められている。過去の苦しみや過ちを否定するのではなく、それを成長の種に変えるという結びである。挫折を経験したすべての人に向けた励ましとして読める。
この章句が説くこと
菩提迷悟悟り謡曲改作転機
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