驢鞍橋 / 卷中
其の古へのうき事を思ひ出るもうらあせや。コ□古へを思ひ出るもうらめしいとは。如何なる故そや。しいいじじと思べとも。さたぎさんげの功徳の爲めに。古への有樣語てきかせ申し候ふへし。若きさかり色ふかく。人の思ひを身に受けててみみ玉章の數々に心をつくす其中に。一入思ひ深草の四位の少將の執心。身にむくひ來て物化となり狂氣せしこと。中々申すも淺間しうこそ候へ。ヨ□マイは少將の念力に仍て狂氣したまひけるみや。おなしくは狂氣の有樣を學ふて御見せ候へ。ルケラらめしとは思へとも連もさんぜの功德なれば。學ふて御僧に見せ申すへし。
新字:其の古へのうき事を思ひ出るもうらあせや。コ□古へを思ひ出るもうらめしいとは。如何なる故そや。しいいじじと思べとも。さたぎさんげの功徳の為めに。古への有様語てきかせ申し候ふへし。若きさかり色ふかく。人の思ひを身に受けててみみ玉章の数々に心をつくす其中に。一入思ひ深草の四位の少将の執心。身にむくひ来て物化となり狂気せしこと。中々申すも浅間しうこそ候へ。ヨ□マイは少将の念力に仍て狂気したまひけるみや。おなしくは狂気の有様を学ふて御見せ候へ。ルケラらめしとは思へとも連もさんぜの功徳なれば。学ふて御僧に見せ申すへし。
書き下し
其の古へのうき事を思ひ出るもうらあせや。コ□古へを思ひ出るもうらめしいとは。如何なる故そや。しいいじじと思べとも。さたぎさんげの功徳の為めに。古への有様語てきかせ申し候ふへし。若きさかり色ふかく。人の思ひを身に受けててみみ玉章の数々に心をつくす其中に。一入思ひ深草の四位の少将の執心。身にむくひ来て物化となり狂気せしこと。中々申すも浅間しうこそ候へ。ヨ□マイは少将の念力に仍て狂気したまひけるみや。おなしくは狂気の有様を学ふて御見せ候へ。ルケラらめしとは思へとも連もさんぜの功徳なれば。学ふて御僧に見せ申すへし。
現代語訳
昔のつらいことを思い出すのも恨めしいことよ。(ワキ)昔を思い出すのも恨めしいとは、どういうわけか。(シテ)恨めしいとは思うけれども(本文が乱れている)、懺悔の功徳のために、昔の有様を語って聞かせましょう。若い盛りに色香深く、人の思いを身に受けて、数々の恋文に心を尽くした中に、ひとしお思い深かった深草の四位の少将の執心が、身に報いてきて物の怪となり、狂気したことは、まことに申すのもあさましいことでございます。(ワキ)さては少将の念力によって狂気なさったのか。同じことなら、その狂気の有様をまねてお見せください。(シテ)恨めしいとは思うけれども、これも懺悔の功徳であるから、まねて御僧にお見せしましょう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『驢鞍橋』卷中アトンのエホルカツキヌかりそめに高聞め雲に心をかけ。胸の抑矢消えやらぬ富士の烟を立ちのほり。 行末もしらぬ我思ひ。あら心くるしやエサシテ今もはや暮れて候ふ。小町がもとへ通ふよなワキおことこそ小町よ。こは何事ず。アンテいや小町と云ふ人は余りに色かふかうで。あなたの玉章こなたのおみ。かき暮れてふる五月雨の。空事なりとも。一度の返事もなふて。空しく過しうらめしや。人恋しや。あら人恋しや。ワキ人恋しやとは。おことの心か。誰れ人の事そ。
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『驢鞍橋』卷中下シテあら苦し目まひや。胸くるしやとかなしみて。一夜をまたで死したりし。深草の少将の。怨念のつきそひて。一度物には狂ひけるろや。下同是を菩提のたねとして。真の道に入りしより。無明深夜の夢さめて。世々の悦ひきはまれり。三界火宅の内を出て。迷悟凡聖一筋に。大道広く行かうよ行かうよ
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『驢鞍橋』卷中シテ扨て小町に心をかけし人多しといへとも。積る思は深草の四位の少将の。上同恨の数のめくり来て。車の榻に通はん。日は何時ぞ夕暮。月こそ友に通ひ路の。関守はありとも。とまるましや出て立たん。下シテ浄衣の袴かいとつて。下同立鳥帽子をかさをり。狩衣の袖を打かついて。人目忍の通路の。月にも行き闇にも行く。雨の夜も風の夜も。木葉の時雨雪深し。シテ軒の玉水泪の雨。心の闇にかきくれて。木幡の山のほそ道をたどるたどるとあゆみ行く。峯高うして谷深し。乱れ心にさそはれて。行きては帰り。帰りては行き。夜二夜三夜四夜。七夜八夜九夜。豊のあかりの節会にも。あはでそかよふ庭鳥の。時をもかへす暁の。榻のはしかき百夜まてとかよひて。九十九夜になりたり。
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『驢鞍橋』卷中次第シテ身は浮草をさうふ水□□流の末のいかならん。サシ旅老母若女哀やげに古へは憍慢尤甚しう。翡翠のかんざしは婀娜と嬋娟にして。楊柳の春の風になびくが如し。桃花の唇鶯舌囀り露を含める糸萩の花にたぐへし。今は民間しづのめにさへきたなまれ。諸人に耻をさらし。嬉しからぬ月日身に積り。百年の姥となつて候ふ。下歌都は人目つゝましや。若しもろれかといふまぐれ。上歌月もろともに出てゝ行く出てゝ行く雲井百敷や。大内山の山守もかゝるうき身はよもとがめじ。木がくれてよしなや。鳥羽の恋塜秋の山。月の桂の川瀬舟。浮ふや法の道ならん。
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『驢鞍橋』卷中おもかげ小町山はあさきにかくれがの山はあさきにかくれがの。深きや心なるらん、ワキ詞是は高野山より出てたる僧にて候ふ。我此度都にのぼらばやと思ひ候ふ。サシ夫れ前仏は既に去り。後仏は未た世に出てず。夢の中間に生れ来て。何を現と思ふへき。実に受け難き人身を受け。逢ひがたき如来の教法を学ひて解脱の道に趣くといへ共。幻化を悟るの外はなし。世の中を何にたとへん。朝ぼらけ漕行舟のあとの波。立居空しき旅の空。行くも帰るも夢なれや。さめぬ心を嘆くなり同爰彼を打過候へば。津国難波あたりについて候ふ。向ひに見ゆるは淡路島。こなたの磯は住吉の。岸の姫松代々かけて。神さびたる有様。あら面白の浦のけしきや候ふ。しばらくやすらひ候ふへし。
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『驢鞍橋』卷中又のふ物たべのふと狂ひ出るも大なる錯也。なに悟道人の気の違ふと云ふことあらんや。爰を古の狂気の有様学はんて御見せ候へと云つて、さらいゑぼしをめせと仕によせ、アヒの男を出し、さて其の後出てまねに狂ふにしたし。又キリに花を仏に手向つゝ悟の道に入らうよと云ふも、相違した云ひやう也。又凡夫に仕成したり、でかい錯ではをりないか故に我造り直しけるを松平和泉守殿見て、観世左近太夫にみせ、御前能の時分させんと云つて取り給ふ也
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
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