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驢鞍橋 / 卷中

アトンのエホルカツキヌかりそめに高聞め雲に心をかけ。胸の抑矢消えやらぬ富士の烟を立ちのほり。 行末もしらぬ我思ひ。あら心くるしやエサシテ今もはや暮れて候ふ。小町がもとへ通ふよなワキおことこそ小町よ。こは何事ず。アンテいや小町と云ふ人は餘りに色かふかうで。あなたの玉章こなたのおみ。かき暮れてふる五月雨の。空事なりとも。一度の返事もなふて。空しく過しうらめしや。人戀しや。あら人戀しや。ワキ人戀しやとは。おことの心か。誰れ人の事そ。

新字:アトンのエホルカツキヌかりそめに高聞め雲に心をかけ。胸の抑矢消えやらぬ富士の烟を立ちのほり。 行末もしらぬ我思ひ。あら心くるしやエサシテ今もはや暮れて候ふ。小町がもとへ通ふよなワキおことこそ小町よ。こは何事ず。アンテいや小町と云ふ人は余りに色かふかうで。あなたの玉章こなたのおみ。かき暮れてふる五月雨の。空事なりとも。一度の返事もなふて。空しく過しうらめしや。人恋しや。あら人恋しや。ワキ人恋しやとは。おことの心か。誰れ人の事そ。

書き下し

アトンのエホルカツキヌかりそめに高聞め雲に心をかけ。胸の抑矢消えやらぬ富士の烟を立ちのほり。 行末もしらぬ我思ひ。あら心くるしやエサシテ今もはや暮れて候ふ。小町がもとへ通ふよなワキおことこそ小町よ。こは何事ず。アンテいや小町と云ふ人は余りに色かふかうで。あなたの玉章こなたのおみ。かき暮れてふる五月雨の。空事なりとも。一度の返事もなふて。空しく過しうらめしや。人恋しや。あら人恋しや。ワキ人恋しやとは。おことの心か。誰れ人の事そ。

現代語訳

(本文が乱れている)かりそめに高い雲に心をかけ、胸の思いは消えやらぬ富士の煙のように立ちのぼり、行く末も知れない我が思い。ああ心苦しいことよ。(シテ)今日ももう暮れました。小町のもとへ通おうよ。(ワキ)あなたこそ小町ではないか。これは何事か。(シテ)いや、小町という人はあまりに色が深くて、あちらの恋文、こちらの文と、かき暮れて降る五月雨のように、たとえ空言でも一度の返事もなくて、空しく過ぎた恨めしさよ。人恋しいことよ。ああ人恋しいことよ。(ワキ)人恋しいとは、あなたの心か。誰のことか。

解説

小町が少将の狂気をまねて演じる場面で、老女の口から、かなわぬ恋に苦しむ男の言葉が語られる。僧があなたこそ小町ではないかと問うと、小町は少将になりきって、一度も返事をくれなかった小町への恨みと人恋しさを訴える。一人の人物が、過去の自分と自分を慕った相手の両方を演じ分けるところに、この場面の深みがある。相手の立場に入り込んでその苦しみを自分の口で語ってみることは、自分の行いが人にどう映っていたかを知る方法でもある。仕事で相手の視点に立つ訓練としても示唆に富む場面である。

この章句が説くこと

執心恋深草少将謡曲相手の立場芸道

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