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驢鞍橋 / 卷中

下シテ和歌の擧世にすぐれ下同月を友とし花にめで。萬里の外に心をつくし。露霜雪のあはれをも言葉のたねと詠じつゝ優にやさしき有樣を。いつその程に引かへて。上歌頭に霜蓬を頂き。嬋娟たりし兩髪もはだへにかじけてす亂れ宛轉たりし雙蛾も。遠山の色を失ふ。百年に一とせたらぬつくもがみ。かゝる氣色は有明の。影あはれなるかな。上ロンキくびにかけたる袋には。いかなるものを入れたるう。シテ上けふも命はしらねどもあすのうへをたすけんと。粟と豆のかれいひを袋に入れて持たるよ。上地域に負へる袋には。ルレツ下くにのあかづける衣あり。地脇にかけむるあじがにば。白黒の田鳥子あり地破れ蓑。シテ破れ笠。地面はかりもかくさねは。シテまして霜雪雨露。同かる壓を拂ふべき袂も袖おあらはでそ。今は路頭にさすらへの。往來の人に物を乞ひ。野に臥し山を家として。ことはる心は更になし。

新字:下シテ和歌の挙世にすぐれ下同月を友とし花にめで。万里の外に心をつくし。露霜雪のあはれをも言葉のたねと詠じつゝ優にやさしき有様を。いつその程に引かへて。上歌頭に霜蓬を頂き。嬋娟たりし両髪もはだへにかじけてす乱れ宛転たりし双蛾も。遠山の色を失ふ。百年に一とせたらぬつくもがみ。かゝる気色は有明の。影あはれなるかな。上ロンキくびにかけたる袋には。いかなるものを入れたるう。シテ上けふも命はしらねどもあすのうへをたすけんと。粟と豆のかれいひを袋に入れて持たるよ。上地域に負へる袋には。ルレツ下くにのあかづける衣あり。地脇にかけむるあじがにば。白黒の田鳥子あり地破れ蓑。シテ破れ笠。地面はかりもかくさねは。シテまして霜雪雨露。同かる圧を払ふべき袂も袖おあらはでそ。今は路頭にさすらへの。往来の人に物を乞ひ。野に臥し山を家として。ことはる心は更になし。

書き下し

下シテ和歌の挙世にすぐれ下同月を友とし花にめで。万里の外に心をつくし。露霜雪のあはれをも言葉のたねと詠じつゝ優にやさしき有様を。いつその程に引かへて。上歌頭に霜蓬を頂き。嬋娟たりし両髪もはだへにかじけてす乱れ宛転たりし双蛾も。遠山の色を失ふ。百年に一とせたらぬつくもがみ。かゝる気色は有明の。影あはれなるかな。上ロンキくびにかけたる袋には。いかなるものを入れたるう。シテ上けふも命はしらねどもあすのうへをたすけんと。粟と豆のかれいひを袋に入れて持たるよ。上地域に負へる袋には。ルレツ下くにのあかづける衣あり。地脇にかけむるあじがにば。白黒の田鳥子あり地破れ蓑。シテ破れ笠。地面はかりもかくさねは。シテまして霜雪雨露。同かる圧を払ふべき袂も袖おあらはでそ。今は路頭にさすらへの。往来の人に物を乞ひ。野に臥し山を家として。ことはる心は更になし。

現代語訳

(下・シテ)和歌の道では世に抜きん出て、(下・同)月を友とし花を愛で、万里の外にまで心を尽くし、露や霜や雪のあわれをも言葉の種として詠み続けた、優雅でやさしい有様を、いつのまにか引き替えて、(上歌)頭に霜のような蓬髪をいただき、美しかった両鬢も肌もかじけて乱れ、美しく弧を描いた眉も遠山の色を失った。百歳に一年足りない九十九髪。このような姿は、有明の月の影のようにあわれなことよ。(上・ロンギ)首にかけた袋には、何を入れているのか。(シテ上)今日の命も知れないが、明日の糧にしようと、粟と豆の干飯を袋に入れて持っているのだよ。(地)背に負った袋には。(シテ)垢じみた衣がある。(地)腕にかけた籠には、白黒の田鳥子(本文が乱れて意味が取りにくい)がある。(地)破れ蓑。(シテ)破れ笠。(地)顔さえも隠せないのだから、(シテ)まして霜雪雨露を、(同)払うべき袂も袖もない。今は路頭にさすらって、往来の人に物を乞い、野に臥し山を家として、それを嫌う心もさらにない。

解説

和歌の名手として月や花を詠み、優雅に暮らしていた小町が、今は白髪を乱し眉の色も失った九十九髪の老婆となっている。ロンギでは、首の袋には明日の糧の干飯、背の袋には垢じみた衣と、その乏しい持ち物が一つずつ問答の形で明かされる。破れ蓑に破れ笠、雨露をしのぐ袖さえなく、野に臥し山を家とする暮らしである。それでも、それを嫌う心はさらにないと結ばれ、何も持たない境遇をそのまま受け入れる姿が描かれる。持ち物の多さではなく、持たないことを受け入れる心の自由が、この場面の主題である。

この章句が説くこと

無常老い清貧小野小町謡曲受容

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