驢鞍橋 / 卷中
鐵長老曰く去る會下にて點句の話に、海道頸にひつかけて笠くんだり走つたろと說破す。和尙の不審に夫れか雲門の二條半敷の詰籠だずと掛けられければ、此の僧ひしとつまる。其の後老僧、衆寮にてさまざま外して見られけるが、なに其外れずといへり師聞て曰く、我は御辛勞お茶參れと外さんずと也。師又別に掛けて曰く、夫れはどこへの行脚だず。自外に曰く、げに忘れ申した、是れより歸り申走、自ら抑して曰く、歸る居處はどこ外に、天の皮の火打袋と云つてかごを扣いたと也。
新字:鉄長老曰く去る会下にて点句の話に、海道頸にひつかけて笠くんだり走つたろと説破す。和尚の不審に夫れか雲門の二条半敷の詰籠だずと掛けられければ、此の僧ひしとつまる。其の後老僧、衆寮にてさまざま外して見られけるが、なに其外れずといへり師聞て曰く、我は御辛労お茶参れと外さんずと也。師又別に掛けて曰く、夫れはどこへの行脚だず。自外に曰く、げに忘れ申した、是れより帰り申走、自ら抑して曰く、帰る居処はどこ外に、天の皮の火打袋と云つてかごを扣いたと也。
書き下し
鉄長老曰く去る会下にて点句の話に、海道頸にひつかけて笠くんだり走つたろと説破す。和尚の不審に夫れか雲門の二条半敷の詰籠だずと掛けられければ、此の僧ひしとつまる。其の後老僧、衆寮にてさまざま外して見られけるが、なに其外れずといへり師聞て曰く、我は御辛労お茶参れと外さんずと也。師又別に掛けて曰く、夫れはどこへの行脚だず。自外に曰く、げに忘れ申した、是れより帰り申走、自ら抑して曰く、帰る居処はどこ外に、天の皮の火打袋と云つてかごを扣いたと也。
現代語訳
鉄長老が言った。「以前ある会下(修行道場)で、点句の話について、一人の僧が『街道を首に引っかけて、笠をかぶって走ったろう』と説破しました。和尚はその不審に『それが雲門の二畳半敷きの詰め籠だぞ』と掛けられたので、この僧はぐっと詰まってしまいました。その後、老僧が衆寮でいろいろ外して(切り返して)みられましたが、どうにも外れない、と言っていました。」師はこれを聞いて言われた。「自分なら『ご苦労様、お茶を召し上がれ』と外そう」と。師はまた別に問いを掛けて言われた。「それはどこへの行脚か。」自分で外して言われた。「なるほど忘れておりました。これから帰ります。」さらに自分で押し返して言われた。「帰る居場所はどこか。」それを外して、「天の皮の火打袋」と言って、かごを叩かれた、ということである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『驢鞍橋』卷中鉄長老来り曰く此比去る和尚の下にて、払子竪起の話に一僧説破に、嵯峨の釈迦はなんて走ると云ふ、和尚の不審に、急度払子を立てたは、虚空蔵菩薩だずと掛けられたり師聞て曰く、早や体を作り出したり。我は無し無しと云ひたは、しやしやむしやのどんぐるりだぞと掛けんずと也。又曰く、我は一つ説破に、十も二十も掛けんず。御坊主達もせめて一つ説破に十つゝかけて見らるべしと云つて、右の説破に十句の不審を掛けたまふ不審に榎で造つた土地蔵。夫は浮世に有る事よ。無しと云ふ意には、天地隔つたず。又夫は上座が巧み立た造りものよ。無し会すや。又瞎漢何を道ふう、西天にも無しと云ふ。此僧にも心頭に病があるう。三十棒あてたいな。又夫はなんだらなんだらのすととんよ。無しと云ふ此の僧には眼があるず。又何の妄語をかなすぞ、眼を醒して無しと云ふ意を知れ。又是れ何う。又扨てこそづりさがつたず。無しと云ふは、石光も及はぬず。又早や有り事に成つたぞ。放下せよ放下せよ又嵯峨の釈迦は知らぬ上座は誰ぞ又無し無し。説破は何の用処ず。
-
『驢鞍橋』卷中雲門転句破にいはく、虚空を鞠にどつど蹴上けたぞ。不審に脚下にぬけたは眼を開け。又虚空を鞠にしたでは無いう。胸のかたまりを蹴上けたう。又瞎漢何を道ふう雲門の意には、電光も通せぬず。又やれ心を留めたず。放下して一句道へ。又扨ても大きに造り立たる鞠哉。蹴上けたは何ものず。又何の妄語をかなす、向はんとすれば背き求めんとすれば白雲万里だぞ。又蹴上けた鞠には落処か有るぞ。落所を道へ又蹴上けたはぬけからよ、作麼生是れ何ぞ。又やれ雲門の意にはづりさがつたう。独達して一句道へ又夫はかため物よ、十方虚空裂破して所を道へ
-
『驢鞍橋』卷下一日、去る和尚の処に至り給ふ。彼の和尚折節近里の長老衆七八人を集て正宗賛を講釈し給ふ。和尚対話の次に曰く、正三此の長老衆の為めに後生物語し給へ。師曰く、なに禅門が御長老達に後世相談申さんや。和尚曰く、いやうばかかに語るやうに語り給へ、師曰く、さらばの言に付て申すべし。何れもは姥かかに非すと思召すか。耳より取り籠んだることを取りのけ、跡を算用して御覧せよ、惜いも貪いも、憎いも愛いも、うばかゝに替るべからす。只物知りたるうばかと思召すと有りければ、長老大に非を知られたり。
-
『驢鞍橋』卷上一日鉄長老問ふて曰く、散乱無き様にと静に坐禅致せば、機沈みて眠る也。如何用心仕るべきや。師示して曰、つゝつくつゝつくと躍つて坐禅めさるべしと也。
-
『驢鞍橋』卷中師衆に問ふ、没量の大人も語脈裡に転却せらる。此の意会すや。一僧云ふ、未徹の者も、霊利にして名句を吐けば、宗匠も彼に転却せらるゝ儀か。師云はく、不是不是、人を見る事にあらす、随分の人が語には転せらるゝもの也。我此の位の覚あり。時に一僧挨拶して云はく、何を以てか転却を免るゝ事を得ん。師云はく、知らす知らす。
-
『驢鞍橋』卷上一日上方より去る長者来り、師に語て曰く、此中或寺より某甲に無実を云ひ懸け、大勢推込み十指を折り、擯罰せられたり。然る処に師兄の何某、只は寺長老捨つる事成るへからす、幸の事也、道心者に成るへしと異見被申けれど、如何しても心得られすして、御訴訟の為めに罷下ると云ふ。師聞て曰く、左様の道心もこそ有るらん、知らぬ事也、是れは其方に異見を申すには非す、我ならば御公儀へ随分訴へ奉り、是非叶はぬ事ならは、古脇指一つ求めて、合手の長老と指違へて死すへしと也。其長老頓て御公儀を歴て理を得られたり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る