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李衛公問対 / 卷中

何也?」靖曰:「兵,不得已而用之,安在為客且久哉?《孫子》曰:『遠輸則百姓貧。』此為客之獘也。又曰:『役不再籍,糧不三載。』此不可久之驗也。臣校量主客之勢,則有變客為主,變主為客之術。」太宗曰:「何謂也?」靖曰:「『因糧於敵』,是變客為主也;『飽能飢之,佚能勞之』,是變主為客也。故兵不拘主客遲速,唯發必中節,所以為宜。」太宗曰:「古人有諸?」靖曰:「昔越伐吳,以左右二軍鳴鼓而進,吳分兵禦之。越以中軍潛涉,不鼓,襲敗吳師,此變客為主之驗也。石勒與姬澹戰,澹兵遠來,勒遣孔萇為前鋒,逆擊澹軍,孔萇退而澹來追,勒以伏兵夾擊之,澹軍大敗,此變勞為佚之驗也。古人如此者多。」太宗曰:「鐵蒺蔾、行馬,太公所制。是乎?」靖曰:「有之,然拒敵而已。

新字:何也?」靖曰:「兵,不得已而用之,安在為客且久哉?《孫子》曰:『遠輸則百姓貧。』此為客之獘也。又曰:『役不再籍,糧不三載。』此不可久之験也。臣校量主客之勢,則有変客為主,変主為客之術。」太宗曰:「何謂也?」靖曰:「『因糧於敵』,是変客為主也;『飽能飢之,佚能労之』,是変主為客也。故兵不拘主客遅速,唯発必中節,所以為宜。」太宗曰:「古人有諸?」靖曰:「昔越伐呉,以左右二軍鳴鼓而進,呉分兵禦之。越以中軍潜渉,不鼓,襲敗呉師,此変客為主之験也。石勒与姫澹戦,澹兵遠来,勒遣孔萇為前鋒,逆撃澹軍,孔萇退而澹来追,勒以伏兵夾撃之,澹軍大敗,此変労為佚之験也。古人如此者多。」太宗曰:「鉄蒺蔾、行馬,太公所制。是乎?」靖曰:「有之,然拒敵而已。

書き下し

何ぞや。」靖曰く、「兵は、已むを得ずして之を用ふ。安んぞ客と為りて且つ久しきに在らんや。『孫子』に曰く、『遠く輸(おく)れば則ち百姓貧し』と。此れ客為るの弊なり。又曰く、『役は籍を再びせず、糧は三たび載せず』と。此れ久しくすべからざるの験なり。臣主客の勢を校量するに、則ち客を変じて主と為し、主を変じて客と為すの術有り。」太宗曰く、「何の謂ぞや。」靖曰く、「『糧を敵に因る』、是れ客を変じて主と為すなり。『飽けるは能く之を飢ゑしめ、佚するは能く之を労せしむ』、是れ主を変じて客と為すなり。故に兵は主客遅速に拘はらず、唯だ発して必ず節に中(あた)る、宜しと為す所以なり。」太宗曰く、「古人に諸(これ)有りや。」靖曰く、「昔越呉を伐つに、左右の二軍を以て鼓を鳴らして進む。呉兵を分かちて之を禦ぐ。越中軍を以て潜かに渉り、鼓せず、襲ひて呉師を敗る。此れ客を変じて主と為すの験なり。石勒姫澹と戦ふに、澹の兵遠く来たる。勒孔萇を遣はして前鋒と為し、逆へて澹の軍を撃たしむ。孔萇退きて澹来たり追ふ。勒伏兵を以て之を夾撃し、澹の軍大いに敗る。此れ労を変じて佚と為すの験なり。古人此くの如き者多し。」太宗曰く、「鉄蒺藜・行馬は、太公の制する所なり。是なるか。」靖曰く、「之有り。然れども敵を拒ぐのみ。

現代語訳

(太宗が言った。兵は主となることを貴び客となることを貴ばず、速さを貴び長さを貴ばないというのは、)なぜか。」李靖は言った。「兵はやむを得ずして用いるものである。どうして客となって、しかも長引かせるということがあろうか。『孫子』に『遠くまで物資を輸送すれば民は貧しくなる』とある。これが客(敵地に攻め入る側)となることの弊害である。また『兵役は二度徴発せず、兵糧は三度運ばない』とある。これが長引かせてはならないことの証しである。臣が主客の勢いを比べ考えると、客を変じて主とし、主を変じて客とする術がある。」太宗は言った。「どういう意味か。」李靖は言った。「『兵糧を敵地で調達する』のは、客を変じて主とすることである。『満ち足りた敵を飢えさせ、休息した敵を疲れさせる』のは、主を変じて客とすることである。だから兵は主客や遅速にこだわらず、ただ動くときに必ず節度に適っていることが、よいとされる所以である。」太宗は言った。「古人にその例があるか。」李靖は言った。「昔、越が呉を討ったとき、左右の二軍に太鼓を鳴らして進ませた。呉は兵を分けてこれを防いだ。越は中軍をひそかに川を渡らせ、太鼓を鳴らさずに襲いかかって呉の軍を破った。これが客を変じて主とした証しである。石勒(五胡十六国の後趙の建国者)が姫澹(晋の将軍)と戦ったとき、姫澹の兵は遠くからやって来た。石勒は孔萇(石勒の将)を先鋒として迎え撃たせ、孔萇が退くと姫澹が追ってきたので、石勒は伏兵で挟み撃ちにし、姫澹の軍は大敗した。これが労を変じて佚(休息した有利な立場)とした証しである。古人にはこのような例が多い。」太宗は言った。「鉄蒺藜(鉄のまきびし)と行馬(移動式の柵)は太公の作ったものだというが、そうか。」李靖は言った。「そういうものはある。しかし敵を防ぐためのものにすぎない。

解説

主客と遅速をめぐる問答である。攻め込む側の客は補給が伸びて民が疲弊し、戦が長引けば国がもたない。そこで李靖は、主客は固定した立場ではなく入れ替えられると説く。敵地で食糧を得れば客が主の利を得、敵を飢えさせ疲れさせれば主を客の苦境に追い込める。越が陽動の二軍で呉を分散させ中軍で奇襲した例、石勒が偽りの退却で姫澹を伏兵へ誘い込んだ例がその実証として挙げられる。市場に後から参入する側も、相手の資源を活用し、相手に消耗を強いることで立場を逆転できる。不利な立場を与件とせず、入れ替える工夫を考えよという教えである。

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