練兵説略抄録 / 練兵大意・教えと闘いを分け、真意に徹する操練
方今操練の要とするは、時勢の相當、人情の自然を以て、規律を正し、節制を嚴にし、金皷旌旗の合圖約束を堅くし、將の采幣に從ふと手足の如く、一言を發する者なく、肅然として運轉離合、進退屈伸、糸を付て引廻すが如く、緩急の拍子を脫さず、勝負の圖を失はざる如くなすにあり。能如此ならば、敵に向ひ、變に應じて、奇正を轉變し、勝を制せんと、掌を指が如くなるべし。是他なし。能敎鬪の別を明にし、實意に徹すれば也。變は敵によつて生ずれば、敵なき操練に、求て變化をなさんとするも、悉く切組にして、實の變化に非ず。强て實戰の容を求んとするの謬は、必ず敵を設て勝負の形勢をなす。其敵とするも實の敵ならざれば、空砲と雖間近くなりては發すべからず。且互に優劣を爭ふより、人心穩かならず、規律節制を失ひ、兒戲に類するに至る。故に能操練するの實意を會得し、衆卒金皷の合圖、將頭奉行の采幣に從ひ、手足の如くなすを要とすべし。必ず求て變化實戰の容をなし、又一定の法格に泥むべからず。」今此書を撰む、一備の節制より、一隊の要領、金皷、旌旗、弓砲、槍馬の概略を述べ、同志操練の一助となす。看者能敎鬪の別を味ひ、其實理に徹し、國家治に亂を忘れざるの政を裨益し、古聖の戒に戾るとなからんとを要すべき也。
新字:方今操練の要とするは、時勢の相当、人情の自然を以て、規律を正し、節制を厳にし、金鼓旌旗の合図約束を堅くし、将の采幣に従ふと手足の如く、一言を発する者なく、粛然として運転離合、進退屈伸、糸を付て引廻すが如く、緩急の拍子を脱さず、勝負の図を失はざる如くなすにあり。能如此ならば、敵に向ひ、変に応じて、奇正を転変し、勝を制せんと、掌を指が如くなるべし。是他なし。能教闘の別を明にし、実意に徹すれば也。変は敵によつて生ずれば、敵なき操練に、求て変化をなさんとするも、悉く切組にして、実の変化に非ず。強て実戦の容を求んとするの謬は、必ず敵を設て勝負の形勢をなす。其敵とするも実の敵ならざれば、空砲と雖間近くなりては発すべからず。且互に優劣を争ふより、人心穏かならず、規律節制を失ひ、児戯に類するに至る。故に能操練するの実意を会得し、衆卒金鼓の合図、将頭奉行の采幣に従ひ、手足の如くなすを要とすべし。必ず求て変化実戦の容をなし、又一定の法格に泥むべからず。」今此書を撰む、一備の節制より、一隊の要領、金鼓、旌旗、弓砲、槍馬の概略を述べ、同志操練の一助となす。看者能教闘の別を味ひ、其実理に徹し、国家治に乱を忘れざるの政を裨益し、古聖の戒に戻るとなからんとを要すべき也。
書き下し
方今操練の要とするは、時勢の相當、人情の自然を以て、規律を正し、節制を嚴にし、金皷旌旗の合圖約束を堅くし、將の采幣に從ふと手足の如く、一言を發する者なく、肅然として運轉離合、進退屈伸、糸を付て引廻すが如く、緩急の拍子を脫さず、勝負の圖を失はざる如くなすにあり。能如此ならば、敵に向ひ、變に應じて、奇正を轉變し、勝を制せんと、掌を指が如くなるべし。是他なし。能敎鬪の別を明にし、實意に徹すれば也。變は敵によつて生ずれば、敵なき操練に、求て變化をなさんとするも、悉く切組にして、實の變化に非ず。强て實戰の容を求んとするの謬は、必ず敵を設て勝負の形勢をなす。其敵とするも實の敵ならざれば、空砲と雖間近くなりては發すべからず。且互に優劣を爭ふより、人心穩かならず、規律節制を失ひ、兒戲に類するに至る。故に能操練するの實意を會得し、衆卒金皷の合圖、將頭奉行の采幣に從ひ、手足の如くなすを要とすべし。必ず求て變化實戰の容をなし、又一定の法格に泥むべからず。」今此書を撰む、一備の節制より、一隊の要領、金皷、旌旗、弓砲、槍馬の概略を述べ、同志操練の一助となす。看者能敎鬪の別を味ひ、其實理に徹し、國家治に亂を忘れざるの政を裨益し、古聖の戒に戾るとなからんとを要すべき也。
現代語訳
今日、操練で要とするのは、時勢にふさわしく、人情の自然に従って、規律を正し、節制を厳しくし、鉦・太鼓・旗の合図と約束を固め、将の采配に従うことが手足のようで、一言を発する者もなく、静粛に動き、離れ合い、進退屈伸が、糸を付けて引き回すようで、緩急の拍子を外さず、勝敗の図を失わないようにすることにあります。このようにできれば、敵に向かい、変化に応じて、奇と正を転じ変え、勝ちを制することは、掌を指すように容易でしょう。これは他でもありません。教えと闘いの別を明らかにし、真意に徹するからです。変化は敵によって生ずるものですから、敵のいない操練で、無理に変化を求めようとしても、すべて型どおりで、本当の変化ではありません。無理に実戦の姿を求めようとする誤りは、必ず敵を設けて勝負の形勢をつくることです。その敵とするものも本当の敵ではないので、空砲でも間近になっては撃ってはなりません。そのうえ互いに優劣を争うから、人心が穏やかでなくなり、規律節制を失い、子どもの遊びに似るまでになります。ゆえに操練をする真意をよく会得し、兵士は鉦・太鼓の合図、将頭・奉行の采配に従い、手足のように動くことを要とすべきです。必ず求めて変化や実戦の姿をつくり、また一定の法格にこだわってはなりません。」今この書を著すにあたり、一備の節制から、一隊の要領、鉦・太鼓、旗、弓・砲、槍・馬の概略を述べ、同志の操練の一助とします。読む者はよく教と闘の別を味わい、その実理に徹し、国家が治にあって乱を忘れない政を助け、古聖の戒めに背くことのないようにすることを求めます。
解説

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見るこの章句が説くこと
関連する章句
-
『練兵説略抄録』・練兵大意・流儀にも流行にも偏らず実質を問う或は固陋にして、流法に自縛せられ、時勢に應ぜざる古格を甘んずる者あり。或は西洋の戰風を慕ひ、異樣を用て、人目を眩惑し、我長を捨て、兵機を鈍するを知らざる者あり。各其實意に違ふ。是予が歎息する所以也。」夫操練は富國强兵の基源にして、和漢の明君賢將此事を重ず。上代專ら勅して兵を練しめられ、源右府大業の後大狩し、神事に流鏑馬、競馬、遊興に笠懸、犬追物等をなす、皆是兵を練の一端となしたる也。今列國往々神事に兵を練の意を存するものあり。唯恨らくは、其形のみを存し、其實を失へることを。夫戰國に操練なく、治世に必ず操練を要す。戰國に操練なきは、士卒常に水火の中に入、白刃を蹈、矢玉を冒し、萬死に入て、一生を得れば、將の指揮に從ふと、左右の手の如くなれば、實地に練熟すれば也。然ども稀には操練なすもあれど、書に記し、敎を殘すに及ず。蒲生氏鄕奧州大崎にて合戰の時、佐久間備前と云者先陣して下知しけるが、氏鄕の心に應せず、重ての先陣は神田修理、外池信濃、岡野左內、蒲生源左衞門たるべし、佐久間は見物せよと命ず。
-
『練兵説略抄録』・練兵大意・机上の理論と現場の失敗から学ぶ然と雖弱冠より發憤する所有て、操練の事に心思を盡し、家傳を祖述し、諸家を參考し、假に規律を設け、書を述るの後、普く天下を廻歷し、度々實際に試るに、席上に講說するが如くなることあたはず、喧嘩亂雜、如何とも詮方なく、手を拱して茫然たると多し。是より又朝思暮練すること數年、聊か自得する所有て、小備指掌三十二卷を著し、敎戰練兵の大要少く具る。其後心思を勞し、時勢相當の活用を述べ、練兵實備三卷を著作して、同志に示す。」然るに近年操練盛に行れ、列國急務として專ら敎閱あり。竊に喜ぶ、野人の微意も達するの時あつて、太平を贊し、士氣を興起するの小補となるを。然りと雖世人其實意に達せず、或は切組に泥み、或は空理を喜び、許多の謬を生ずるは、實に歎息に堪ざる所也。今操練をなす者、敎戰鬪戰の差別を知らず、實戰奇變の運用と號し、規律節制を嚴正ならしめざれば、迷亂して士卒其なす所を知らず、喧嘩して事調のはざる者あり。或は規律法格に縛せられ、一大活物を强て死物となし、切組の帳面通りを墨守し、緩急を辨ぜず、拍子調子を知らず、大に膠柱調瑟の誤りをなす者あり。或は人の切組たる業合の趣意を知らず、臆度を以て是を增減し、神事戲場の如く、傍觀の耳目を驚し、形粧の美を飾り、兵意は勿論、規格節制の定理を知らずして、種々の作意を加る者あり。
-
『練兵説略抄録』・練兵大意・大事の前に内習を重ねる先陣の四人四人申合けるは、我輩討死するとも、拔群の事なくば、大將の恥辱たらん、能進退の節を內習なすべしとて、先陣の士卒を引率し、內習五度に及ぶ。然れども尙調ず。四人かくては明日の一戰覺束なし、人々の進退以の外調はず、如何にも能心得よと、再三申令し、再び采幣を執て下知するに、進退圖に當りしかば、大に悅び勇み、其日の合戰果して大利を得たり。此頃淺野長政陸奧の國に有しが、其日の駈引の圖に當る、未だ見聞せざる所なりと褒稱せしと也。是を以て見時は、戰國の時と雖、大事の合戰前には、時として操練ありしを知べし。況や太平三百年に近く、軍陣戰鬪の事は夢に見るとだになく、其備處も知らぬ烏合同樣の兵を卒し、大節の場に出て何をかなさん、喧嘩迷亂の外なし。韓白の將、甲越の主と雖、如何ぞ此衆を鬪かはしむるを得ん、敗んと敵を待べからず。是治世必ず操練を要とする所以也。」假令常の操練未だ善を盡さざるも、各其備ふべきの場を知、坐作進退の形ちを知らば、備を立る迄の事はなるべし、是其効の見易き者也。
-
『練兵説略抄録』・練兵大意・太平の世にこそ乱を忘れない備え治に亂を忘れざるは、古聖の敎戒、人君最も心を可盡の要たり。承平既に久しく、干戈府庫に納り、將士目に旌旗を見ず、耳に金皷を聞ず、暖衣飽食、般樂怠傲し、遂に武備解弛、士氣衰弱するは、自然の勢ひ也。一旦是を英武剛强の士氣に挽回するは、和漢古今其難を患とする所也。本朝英武萬國に勝れ、戎具の堅剛、刀槍の銳利、宇內能企て及ぶものなし。今や承平二百有餘年、甲兵の堅銳は聊か古と異なるなしと雖、士氣の英武如何ぞ同日にして語ることを得ん乎。若不虞のことあらんに、勝を制し、敵を破んと如何あらん。人君活眼を開き、士氣振興するを急務とし、武備を盛にし、武技を精練せしめ、操練を專らとし、坐作進退、聚散離合、將の指揮に應ずる、手足の如くならしめんには、萬一蠻夷の來寇あるも、何ぞ懼るに足ん。「一戰賊を摧して、日本刀の銳利を示さんは、豈不愉快哉。」余不肖生を兵家に禀、家傳を講究する數十年、旣に知命に至と雖、短材愚昧、更に得所なく、固陋偏狹にして、徒らに父書を讀のみ。
-
『海国兵談抄録』・第一巻 水戦・怠るなの戒めと操練、文武学校の趣意後世、必唐山韃靼の地より日本を侵掠する企を爲す者起るべし、怠る事なかれ、怠る事なかれ、是開闢より三千年の後、今日に至て、小子始て發言する所なり、竊に憶へば、此說話、小子が度に過たり、若くは鹽竈大神の詫宣にもある歟、初發より玆に至ては小子が千古獨見にして、日本武備の綱領斯に在と、竊に誇る所也、然と云ども文面而已を悅て、器械を不具は、善の善にあらず、又器械を見ても、操練なきは、亦善の善にあらず、文面を能會得し、器械を備、操練を善して、而後、始て善の善と云べき也、都て軍事は陸戰たりとも、操練なき人數は、やたら戰に成事多し、況や水戰は、船の懸引も、一身の進退も、不自由至極なるものなれば、是非に操練なくて不叶事也、然る故に水戰の操練は、操練中の又大切なる操練なりと知べし、必ゆるかせにする事勿れ、然と云ども、一向に操練而已に泥めば、亦血戰に鈍くなる事あり、能彼是の交を呑込て、操練血戰、二ッながら全きを妙と爲べし、扨既に海國水戰の義を述し上は、亦略陸戰の事をも話べし、因て第二卷より十六卷迄を書記して、以て大小戰鬪の大較を示す、讀者忽に爲事勿れ、左に圖する文武學校は、初より段々云る如く、まづ五六十萬石の國の形勢を以て圖する所也、然と云ども是は定式の無ものなれば、損益廣狹は心の儘に致さる〻事也、只其趣意さへ失はざれば、一二萬石の國と云ども建立せらるべし、況や其上なるをや、只返す〳〵も一圖に泥む事勿れ、附此意を推及して一家の內、子弟を敎る事も、亦此趣意を以てすべし、斯の如くならば、上、大將より、下、士庶に至る迄、皆文武兼備の趣を呑込て、其國柄、其人柄、當世に十倍して、目出度事此上もなき事なるべし、
-
『武教講録』・惣目錄・平素と変事を貫く三つの備え練陣、行軍、營法、城築、四つの者は是を平素に設て是を臨變に施す者にて、動靜を包ね躰用を兼る也、用間以上は多は是平素の事也靜也躰也、客戰以下は多は是臨變の事也動也用也、此四篇正に其中間に置く其意知るべし、然靜中動あり、動中靜あり、躰中用あり、用中躰あり、平素臨變互に其功用を見る、故に已に其分別あるを知らば又其合一なるを悟るべし、客主以下十六戰、其先後の次序備さに妙思を藏す、今悉く述るに暇あらず、姑く其最重の者を云はど客主二篇にあり、而して主を後にして客を先ずる者、舊來其說を傳ふ極て道理あり、凡そ退守の法は進取の畧なくては萬々出來ぬとなり、當今の時に當り、砲臺を築き砲門を鑄て、海岸防禦異賊手當など罵る位の怯懦にては、迚も神州の保全は出來ぬなり、早く偸安の習を止め、四夷出征の策を定めずんばあるべからず、是客主先後の義にして、攻守の先後其他毎篇中往々其意を見る、是固より人主の任也、乃ち一士一卒と云ども、此書を讀み此旨を悟らば、人主に謁見して鄙見を獻納し、其萬一を裨補するとを思ふべし、戰法は是れ十六戰の精義乃全部の精義、序段と對照して躰用動靜並に其深意を悟らば、人主の道是に於て大に備れりと云べし、兵具の一篇器械醫療の雜事全部の漏闕を補ふて附錄とす、亦一騎前學の流裔なり、全書中凡て是等の枝葉の事に及ぶ者は、皆專門の材を養て其用に供するの端を發するなり、自序に論ずる所を考よ、抑序段の謀畧は知己也、智畧は知彼也、計策は應變也、是を全部にて論ぜば、城築以上は謀畧なり、客戰以下は計策なり、其間斥候用間等は專ら智畧を說なり、是其大概にて、其實は篇々此三つの者あり、心を付べし、丙辰臘月念二日具稿