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楽訓 / 巻之下・後論

一同じく人と生れて、富貴なる人あり、貧賤なる人あり、其高下の品誠に多し。富貴なる人は、おごらずして人をめぐむを樂とすべし。乞丐も生れつきたる分ありて、定まりたる事をさとり、分をやすんじて樂むべし。たとへば松は高き事數十尺にいたり、平地木はひきゝ事數寸に過ぎず。同じく樹木となれど、長短各ことなれるは、生れつき定まればなり。きはめて貧しき人も、我が分のひきゝを安んじて、うれふべからず。生れつかざる富貴を羨むべからず。又世には、我ほどもなき人多し。それより下なる人を見て、我が分を樂むべし。上を羨むべからず。又同じく人と生れたれども、長壽なる人あり、短命なる人あり。長き短き其品多くして、あげて數へがたし。

新字:一同じく人と生れて、富貴なる人あり、貧賤なる人あり、其高下の品誠に多し。富貴なる人は、おごらずして人をめぐむを楽とすべし。乞丐も生れつきたる分ありて、定まりたる事をさとり、分をやすんじて楽むべし。たとへば松は高き事数十尺にいたり、平地木はひきゝ事数寸に過ぎず。同じく樹木となれど、長短各ことなれるは、生れつき定まればなり。きはめて貧しき人も、我が分のひきゝを安んじて、うれふべからず。生れつかざる富貴を羨むべからず。又世には、我ほどもなき人多し。それより下なる人を見て、我が分を楽むべし。上を羨むべからず。又同じく人と生れたれども、長寿なる人あり、短命なる人あり。長き短き其品多くして、あげて数へがたし。

書き下し

一同じく人と生れて、富貴なる人あり、貧賤なる人あり、其高下の品誠に多し。富貴なる人は、おごらずして人をめぐむを楽とすべし。乞丐も生れつきたる分ありて、定まりたる事をさとり、分をやすんじて楽むべし。たとへば松は高き事数十尺にいたり、平地木はひきき事数寸に過ぎず。同じく樹木となれど、長短各ことなれるは、生れつき定まればなり。きはめて貧しき人も、我が分のひききを安んじて、うれふべからず。生れつかざる富貴を羨むべからず。又世には、我ほどもなき人多し。それより下なる人を見て、我が分を楽むべし。上を羨むべからず。又同じく人と生れたれども、長寿なる人あり、短命なる人あり。長き短き其品多くして、あげて数へがたし。

現代語訳

同じく人として生まれても、富貴な人もいれば貧賤な人もいて、その上下の品は実に多い。富貴な人は驕らずに人を恵むことを楽しみとすべきです。乞食にも生まれついた分があるので、それが定まったことであると悟り、分に安んじて楽しむべきです。たとえば松は高さ数十尺にもなりますが、平地の木で低いものは数寸に過ぎません。同じく樹木となっても長短がそれぞれ異なるのは、生まれつき定まっているからです。きわめて貧しい人も、自分の分の低さに安んじて、憂えてはなりません。生まれつかない富貴をうらやんではなりません。また世には自分ほどにも恵まれない人が多い。その下の人を見て、自分の分を楽しむべきです。上をうらやんではなりません。また同じく人と生まれても、長寿の人もいれば短命の人もいます。長い短いの品は多くて、数え上げることができません。

解説

人の境遇の違いを、高い松と低い木にたとえて「分」として受け入れ、上をうらやまず下を見て自分の分を楽しめと説きます。富貴な人には驕らず人を恵むことを求めており、単なるあきらめの勧めではなく、それぞれの立場での楽しみ方を示しています。身分制の社会を背景にした考えではありますが、他人との比較で心をすり減らしやすい今、自分に与えられたものに目を向け、足ることを知る姿勢は心の平安に役立ちます。寿命の長短にも話は及んでいきます。

この章句が説くこと

分足る富貴貧賤比較

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