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正法眼蔵随聞記 / 巻一

亦物語に云く、故の鎌倉の右大將、始め兵衞佐にて有し時、內裡の邊に、日はれの會に出仕の時、一人の不當人ありき、其時の大納言あふせて云く、是を制すべしと、大將の云く、六波羅に仰せらるべし、平家の將軍なりと、大納言の云く、近か近かなればなりと、大將の云く、其の人に非ずと、是れ美言なり、此の心にて後には世をも治められしなり、今の學人も其心あるべし、其人にあらずして人を呵すること莫れ、

新字:亦物語に云く、故の鎌倉の右大将、始め兵衛佐にて有し時、内裡の辺に、日はれの会に出仕の時、一人の不当人ありき、其時の大納言あふせて云く、是を制すべしと、大将の云く、六波羅に仰せらるべし、平家の将軍なりと、大納言の云く、近か近かなればなりと、大将の云く、其の人に非ずと、是れ美言なり、此の心にて後には世をも治められしなり、今の学人も其心あるべし、其人にあらずして人を呵すること莫れ、

書き下し

亦物語に云く、故の鎌倉の右大将、始め兵衛佐にて有し時、内裡の辺に、日はれの会に出仕の時、一人の不当人ありき、其時の大納言あふせて云く、是を制すべしと、大将の云く、六波羅に仰せらるべし、平家の将軍なりと、大納言の云く、近か近かなればなりと、大将の云く、其の人に非ずと、是れ美言なり、此の心にて後には世をも治められしなり、今の学人も其心あるべし、其人にあらずして人を呵すること莫れ、

現代語訳

また物語に言う。故鎌倉の右大将が、初め兵衛佐であったとき、内裏のあたりで、晴れの会に出仕したときのこと、一人の不当な振る舞いをする者がいた。そのときの大納言が仰せられて言った。これを制すべきである、と。大将が言った。六波羅に仰せられるがよい、平家の将軍でありますから、と。大納言が言った。近いところにいるからこそ言うのだ、と。大将が言った。私はその人ではありません、と。これは美しい言葉である。この心があったからこそ、後には世をも治められたのである。今の学人にもその心があるべきである。その任にある人でもないのに、人をしかってはならない。

解説

前条の「其人にあらずして人を呵すること莫れ」を、頼朝の逸話で裏づける。近くにいるのだからおまえが止めよと促されて、自分は取り締まる立場ではないと退けた。出過ぎないことが臆病ではなく、後に天下を治めるだけの見識だったと道元は読む。仏道の話に武家の逸話を持ち込むのは随聞記にしばしばある運びで、聞き手の日常に橋を架けている。

この章句が説くこと

分立場自制非難見識源頼朝

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