楽訓 / 巻之中・節序
されば冬の氣の一方にとぢかくれて、爲す事なきは、一年の功成り、事遂げて、終をなせるのみならず、又來る年の發生の惠をふくみたんめれば、始をなせりといふべし。人の夜なよなねいり氣しづまれるは、終日のいたはりを休め、明日のうごきなせるしわざの力の本となれり。もし夜よくいねざれば、今日のいたはりを休めがたく、明日のはたらき力なきが如し。冬にあたりて、人も亦天の時にしたがひて、しづかに精神を養ふべし。
新字:されば冬の気の一方にとぢかくれて、為す事なきは、一年の功成り、事遂げて、終をなせるのみならず、又来る年の発生の恵をふくみたんめれば、始をなせりといふべし。人の夜なよなねいり気しづまれるは、終日のいたはりを休め、明日のうごきなせるしわざの力の本となれり。もし夜よくいねざれば、今日のいたはりを休めがたく、明日のはたらき力なきが如し。冬にあたりて、人も亦天の時にしたがひて、しづかに精神を養ふべし。
書き下し
されば冬の気の一方にとぢかくれて、為す事なきは、一年の功成り、事遂げて、終をなせるのみならず、又来る年の発生の恵をふくみたんめれば、始をなせりといふべし。人の夜なよなねいり気しづまれるは、終日のいたはりを休め、明日のうごきなせるしわざの力の本となれり。もし夜よくいねざれば、今日のいたはりを休めがたく、明日のはたらき力なきが如し。冬にあたりて、人も亦天の時にしたがひて、しづかに精神を養ふべし。
現代語訳
だから冬の気が一方に閉じ隠れて何もしないのは、一年の功が成り、事が遂げられて終わりをなすだけでなく、また来る年の発生の恵みを含んでいるので、始まりをなすと言うべきです。人が夜ごと寝入って気が静まるのは、一日の疲れを休め、明日の活動の力の本となります。もし夜よく眠らなければ、今日の疲れを休めにくく、明日の働きに力がないようなものです。冬にあたっては、人もまた天の時に従って、静かに精神を養うべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『楽訓』巻之中・節序一一年の内をすべて思ふに、春は陽気はじめてのぼり、万物生ず。空の景色のどかに、人の心もうららかにして賑はし。夏は陽気ことごとく上り、宇内にあまねく満ち、天地まじはりて、草木しげく、万物長す。秋は陽気はじめて下り、陰気のぼり、万物蔵まりて、景色いさぎよく、人の心にしみて、感ずる事ふかし。春に対して、はた裏表となれり。冬は陽気ことごとく下り、陰気専らにして、万物かくる。夏に対して、又裏表となれり。およそ一年のめぐり、冬にいたりて天地まじはらず、とぢふさがりて品物かくれぬれば、春生じ、夏長じ、秋をさむる如くなるしわざはなくて、月日多くうつろひ行けど、何のうるはしき景気も見えず、四時の内にて、為す事なくて、いたづらなる時ぞと見ゆれど、春夏秋のうるはしき景色と、なし出せるしわざと、此時にいたりとどまり、一年の大なる功をなしをはりて、そこばくの元気を深く貯へかくして、来れる春の本となる理をふくめるは、此時にぞあんなる。
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『五常訓』巻之五・智又天地の元気、冬の間しづまり息まざれば、来春大に発生して、功用をなしがたし。冬の内、天地の気をさまりて、内にふくみ集るを以て、来春の陽気、是より出づる故、発生の本とす。是一年の功の初を生すなり。故に冬は一年のをはりを成して、又一年のはじめを生す。人の身も、あしたよりゆふべに至りて、動働けども、夜にいたりて寝いりしづまる。是一日のをはりを成すなり。又夜中ねぶらざれば、明日力なし。夜中に、よく寝いり息めば、明日の働に力あり。是明日の初を生ずるなり。智の四徳の初を生じ、終を成すも、亦かくの如し。礼はさかんにあらはる。智はかくれて見えず。礼と智とは、うらおもてなり。夏は万物さかんに、陽気あらはる。冬は万物ひそまりて、陽気かくる。冬と夏とは、うらおもてなるが如し。
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『慎思録』巻之六冬気の閉蔵する者は、乃ち終はりを成して兼ねて始めを成す所以なり。蓋し春生じ夏長じ秋収め、三時は各為す所有り。冬に至りては、則ち功成り事遂げて、為す所無き者、是れ往歳の功を成す所以なり。且つ閉蔵の中、生意を含蓄する者は、乃ち来春物を生ずるの始めと為る所以なり。諸を穀実に譬ふれば、其の成熟する者は、功を成す所以なり。其の中に生性有る者は、来春発生の気を含む所以なり。
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『大和俗訓』巻之四・心術下一天道は、春は生じ、夏は長じ、秋はをさむ。三時は皆事あり。冬はただ生気のかくれしづまるまでにて、しわざなし。夜ふけて人のねいりたる時、無事にしてやすむが如し。冬の気閉蔵するは、即是、来春発生の本なり。冬寒気はげしくして、陽気をさまりかくるれば、来春の陽気さかんなり。故に冬あたたかに雷なりて、陽気動きもるれば、来春の発生の気よわく、秋穀の実のりもうすし。人夜半の後いねざれば、血気しづまらずして、明日力よわし。人心も静なる時に養ひて、動く時の本とすべし。心しづかならず、動きさわげば、わざをつとむるに力なく、まよひてあやまり多し。
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『呻吟語』外篇・天地・冬は萬物の夜冬なる者は、萬物の夜なり。勞倦を待ちて精神を養ふ所以の者なり。春に生じ夏に長じ秋に成るも、之を培養するに冬を以てせずんば、則ち萬物の滅すること久し。是れ知る、大冬の嚴寒は、萬物を仁する所以なることを。愈いよ嚴凝すれば則ち愈いよ收斂し、愈いよ收斂すれば則ち愈いよ精神なり、愈いよ精神なれば則ち生發の氣愈いよ條暢なり。之を人に譬ふれば須らく安歇するを要す。今夜能く熟睡せば、則ち明日必ず精神ならん。故に曰く、冬なる者は萬物の命を歸する所以なり。
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『楽訓』巻之中・節序一冬の末つ方にも至りぬれば、今年の日かず残りすくなく、暦の軸あらはるるばかりにて、春のとなり既に近し。年の終るはをしむべく、齢のかさなるはうれはしけれど、新しき年を迎ふるは、珍かにて喜ぶべし。此ころは、世の中の人何くれといそがはしせきあへず、おほくののしりて、走りまどふを、ひとり静かに見る人は、楽むべし。一年は、はかなき夢の心地して過ぎぬれば、あとをかへり見て、せちに名残をしむべし。老の身は、月日もいとどたちやすく、何ほどもなき一年なるを、数へ添るもうらめし。されど人の世をふるは、思はずも変多き事なるを、一年の内、わざはひなくて過ぎぬる人は、また楽しからずや。春秋の暮行くだに、名残をしむべし。
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