楽訓 / 巻之上・総論
一人の命は限りあり、ひいて長くしがたし。限りある命の內の光陰ををしみ、樂みて月日を送るべし。しばしが間も、益なき事をなし、ひが事を行ひ、樂まずして、空しく過すべからず。況やうれひ苦み、怒りかなしみて、樂を失ふは、愚なり。なす事なく樂まずして、月日を空しく過さば、千年を經ともかひ無かるべし。
新字:一人の命は限りあり、ひいて長くしがたし。限りある命の内の光陰ををしみ、楽みて月日を送るべし。しばしが間も、益なき事をなし、ひが事を行ひ、楽まずして、空しく過すべからず。況やうれひ苦み、怒りかなしみて、楽を失ふは、愚なり。なす事なく楽まずして、月日を空しく過さば、千年を経ともかひ無かるべし。
書き下し
一人の命は限りあり、ひいて長くしがたし。限りある命の内の光陰ををしみ、楽みて月日を送るべし。しばしが間も、益なき事をなし、ひが事を行ひ、楽まずして、空しく過すべからず。況やうれひ苦み、怒りかなしみて、楽を失ふは、愚なり。なす事なく楽まずして、月日を空しく過さば、千年を経ともかひ無かるべし。
現代語訳
人の命には限りがあり、引き延ばして長くすることは難しいものです。限りある命のうちの時間を惜しみ、楽しんで月日を送るべきです。しばらくの間でも、益のないことをし、道理に外れたことを行い、楽しまずにむなしく過ごしてはなりません。まして憂え苦しみ、怒り悲しんで楽しみを失うのは愚かなことです。何もせず楽しみもせずに月日をむなしく過ごすなら、千年を経てもかいがないでしょう。
解説
命には限りがあるから、時を惜しんで楽しめと益軒は繰り返します。ここで言う楽しみは怠けて遊ぶことではなく、益のあることをし、善を行い、心を和らげて過ごすことです。憂いや怒りで楽しみを失うのは愚かであり、何もせずに過ごすなら千年生きても意味がないという言葉は厳しいものです。長さよりも中身が大切だという考えは、健康で長生きすることを説いた『養生訓』の著者だからこそ、いっそう重みを持って響きます。
この章句が説くこと
命時間楽しみ憂い人生
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