礼記 / 楽記
樂也者,施也;禮也者,報也。樂,樂其所自生;而禮,反其所自始。樂章德,禮報情反始也。所謂大輅者,天子之車也。龍旗九旒,天子之旌也。青黑緣者,天子之寶龜也。從之以牛羊之群,則所以贈諸侯也。
新字:楽也者,施也;礼也者,報也。楽,楽其所自生;而礼,反其所自始。楽章徳,礼報情反始也。所謂大輅者,天子之車也。竜旗九旒,天子之旌也。青黒縁者,天子之宝亀也。従之以牛羊之群,則所以贈諸侯也。
書き下し
楽なる者は施すなり。礼なる者は報ゆるなり。楽は其の自りて生ずる所を楽しみ、礼は其の自りて始まる所に反る。楽は徳を章(あきら)かにし、礼は情に報いて始めに反る。所謂大輅(たいろ)なる者は、天子の車なり。龍旗(りゅうき)九旒(きゅうりゅう)は、天子の旌(はた)なり。青黒の縁(ふち)ある者は、天子の宝亀なり。之に従うるに牛羊の群を以てするは、則ち諸侯に贈る所以なり。
現代語訳
楽とは施すことであり、礼とは報いることである。楽は自分を生じさせてくれたものを楽しみ、礼は自分の始まりに立ち返る。楽は徳を明らかにし、礼は恩情に報いて始まりに立ち返る。いわゆる大輅(たいろ、天子の大きな車)とは天子の車のことである。龍を描き九本の旒(りゅう、吹き流し)をつけた旗は天子の旗である。甲羅の縁が青黒い亀は天子の宝亀(占いに用いる尊い亀)である。これらに牛や羊の群れを添えるのは、諸侯に贈り物をするためである。
解説
楽と礼の性質を「施」と「報」の対で捉えた段である。鄭玄は、楽は出ていって返ってこないもの、礼は往来のあるものと注する。楽は自分を生んだものを喜び讃え、その徳を明らかにする。礼は恩に報い、物事の始まりに立ち返る。「礼は情に報いて始めに反る」は、『礼記』のほかの篇でも繰り返される「報本反始」、すなわち本に報い始めに反るという考えと重なる。後半では、天子の車である大輅、龍の旗、青黒い縁の宝亀、牛羊の群れが挙げられ、それらが諸侯への贈り物だとされる。鄭玄は、朝見に来た諸侯が帰るときに礼をもって贈るものだと注している。前半とのつながりはわかりにくいが、贈り物という形で恩に報い、往来を成り立たせる礼の具体例として読むことができる。受けた恩を忘れず形で返すことは、贈答の習慣が細やかな日本の暮らしにもなじみ深い。施すだけでなく、報いることで関係は往来するものになる。
この章句が説くこと
礼記楽記報本反始贈り物恩
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