導師導古典を学びたいすべての人に

翁問答 / 上卷之末

この五福六極のさたは書經の洪範に見へたり、天道この五福六極をもて善惡をたゞし給ふ事、春はあたゝかに夏はあつく、秋はすゞしく、冬はさむきが如く、むかしも今も末代もいつも變らぬ妙理なり、しかるに間に善人も五福をうけず、惡人も六極をのがるゝことあるは、天の時は地の利にしかず、といひて、虛は實に勝ぬものなれば、五福六極の命は氣に屬して虛なり、胎育の始めに受たる運命は、形に屬して實なるゆへに、虛なる福極かたずして一旦かくの如し、たとへば六月の土用は極めてあつく、かたびらさへ身にかゝらねども、惡寒の病ある人は綿入を重ねても猶さむし、また極月の大寒には、きる物をかさねきて火にあたりてもあつからぬに、大發熱の病人は、はだぬぎても猶あつし、常の人にあたるあつささむさも、かの病人にあたる暑き寒さもおなじことなれども、暑寒は氣に屬して虛なり、惡寒發熱の病は形につきて實なる故に、虛なる暑寒の氣實なる病邪にかたざる如し、此たとへにてよくよく躰認あるべし、

新字:この五福六極のさたは書経の洪範に見へたり、天道この五福六極をもて善悪をたゞし給ふ事、春はあたゝかに夏はあつく、秋はすゞしく、冬はさむきが如く、むかしも今も末代もいつも変らぬ妙理なり、しかるに間に善人も五福をうけず、悪人も六極をのがるゝことあるは、天の時は地の利にしかず、といひて、虚は実に勝ぬものなれば、五福六極の命は気に属して虚なり、胎育の始めに受たる運命は、形に属して実なるゆへに、虚なる福極かたずして一旦かくの如し、たとへば六月の土用は極めてあつく、かたびらさへ身にかゝらねども、悪寒の病ある人は綿入を重ねても猶さむし、また極月の大寒には、きる物をかさねきて火にあたりてもあつからぬに、大発熱の病人は、はだぬぎても猶あつし、常の人にあたるあつささむさも、かの病人にあたる暑き寒さもおなじことなれども、暑寒は気に属して虚なり、悪寒発熱の病は形につきて実なる故に、虚なる暑寒の気実なる病邪にかたざる如し、此たとへにてよくよく体認あるべし、

書き下し

この五福六極のさたは書経の洪範に見へたり、天道この五福六極をもて善悪をたゞし給ふ事、春はあたゝかに夏はあつく、秋はすゞしく、冬はさむきが如く、むかしも今も末代もいつも変らぬ妙理なり、しかるに間に善人も五福をうけず、悪人も六極をのがるゝことあるは、天の時は地の利にしかず、といひて、虚は実に勝ぬものなれば、五福六極の命は気に属して虚なり、胎育の始めに受たる運命は、形に属して実なるゆへに、虚なる福極かたずして一旦かくの如し、たとへば六月の土用は極めてあつく、かたびらさへ身にかゝらねども、悪寒の病ある人は綿入を重ねても猶さむし、また極月の大寒には、きる物をかさねきて火にあたりてもあつからぬに、大発熱の病人は、はだぬぎても猶あつし、常の人にあたるあつささむさも、かの病人にあたる暑き寒さもおなじことなれども、暑寒は気に属して虚なり、悪寒発熱の病は形につきて実なる故に、虚なる暑寒の気実なる病邪にかたざる如し、此たとへにてよくよく体認あるべし、

現代語訳

この五福六極のことは書経の洪範に見える。天道がこの五福六極をもって善悪を正しなさることは、春は暖かく、夏は暑く、秋は涼しく、冬は寒いように、昔も今も末代も、いつも変わらぬ妙理である。それなのに時に善人も五福を受けず、悪人も六極を逃れることがあるのは、「天の時は地の利に如かず」といって、虚は実に勝てないものだからである。五福六極の命は気に属して虚であり、胎育の初めに受けた運命は形に属して実であるから、虚である福・極が勝てずに、いったんはこのようになるのである。たとえば六月の土用はきわめて暑く、帷子さえ身にまとえないほどだが、悪寒の病がある人は綿入れを重ねてもなお寒い。また十二月の大寒には、着物を重ね着して火にあたっても暑くないのに、大発熱の病人は肌脱ぎになってもなお暑い。常の人にあたる暑さ寒さも、あの病人にあたる暑さ寒さも同じことだが、暑寒は気に属して虚であり、悪寒発熱の病は形について実であるから、虚である暑寒の気が実である病邪に勝てないようなものである。このたとえでよくよく体認するがよい。

解説

天の賞罰が一時的に働かないように見える理由を、藤樹は虚実の勝負で説明する。孟子公孫丑篇の天の時は地の利に如かずを引き、気に属する五福六極は虚、形に属する運命は実であり、虚はしばらく実に勝てないとする。そのたとえが巧みで、夏の土用でも悪寒の病人は綿入れを重ね、大寒でも発熱の病人は肌を脱ぐ。季節が偽りなのではなく、病という実が一時的に勝っているのである。目先の結果が理にかなわないとき、原則そのものを疑う前に、何が一時的に勝っているのかを見極めたい。

この章句が説くこと

五福六極虚実運命天道洪範

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る