翁問答 / 上卷之末
此運命はかたちに生れつくによつて實なり、五福六極はその形成長してのちその心もち身の行ひの善惡によつて嚮威したまふ命なれば、氣の變化にて虛なりまづ此虛實の理をよく體認あるべし、さて福善の幸はひを五福といひて五つあり、天道この五福を以つて善人に與へ給ふ、一曰壽、これはいのちながきをいふ、二曰富、是は財寶の澤山なるを云、三曰康寧、これはうれひもなくやすらかなるをいふ、四曰攸好德、是は明徳のあきらかにして、天理の眞樂常に泰然とあるを云、即ち孔顏のたのしみこれなり、
新字:此運命はかたちに生れつくによつて実なり、五福六極はその形成長してのちその心もち身の行ひの善悪によつて嚮威したまふ命なれば、気の変化にて虚なりまづ此虚実の理をよく体認あるべし、さて福善の幸はひを五福といひて五つあり、天道この五福を以つて善人に与へ給ふ、一曰寿、これはいのちながきをいふ、二曰富、是は財宝の沢山なるを云、三曰康寧、これはうれひもなくやすらかなるをいふ、四曰攸好徳、是は明徳のあきらかにして、天理の真楽常に泰然とあるを云、即ち孔顔のたのしみこれなり、
書き下し
此運命はかたちに生れつくによつて実なり、五福六極はその形成長してのちその心もち身の行ひの善悪によつて嚮威したまふ命なれば、気の変化にて虚なりまづ此虚実の理をよく体認あるべし、さて福善の幸はひを五福といひて五つあり、天道この五福を以つて善人に与へ給ふ、一曰寿、これはいのちながきをいふ、二曰富、是は財宝の沢山なるを云、三曰康寧、これはうれひもなくやすらかなるをいふ、四曰攸好徳、是は明徳のあきらかにして、天理の真楽常に泰然とあるを云、即ち孔顔のたのしみこれなり、
現代語訳
この運命は形に生まれつくものだから実である。五福六極は、その形が成長してのち、その心の持ちようと身の行いの善悪に応じて、天が福に嚮かわせ極をもって威したまう命であるから、気の変化であって虚である。まずこの虚実の理をよく体認するがよい。さて善に福する幸いを五福といって五つある。天道はこの五福をもって善人に与えなさる。一に寿、これは命が長いことをいう。二に富、これは財宝が豊かなことをいう。三に康寧、これは憂いもなく安らかなことをいう。四に攸好徳、これは明徳が明らかで、天理の真の楽しみが常に泰然としてあることをいう。すなわち孔子と顔回の楽しみがこれである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『翁問答』上卷之末この五福六極のさたは書経の洪範に見へたり、天道この五福六極をもて善悪をたゞし給ふ事、春はあたゝかに夏はあつく、秋はすゞしく、冬はさむきが如く、むかしも今も末代もいつも変らぬ妙理なり、しかるに間に善人も五福をうけず、悪人も六極をのがるゝことあるは、天の時は地の利にしかず、といひて、虚は実に勝ぬものなれば、五福六極の命は気に属して虚なり、胎育の始めに受たる運命は、形に属して実なるゆへに、虚なる福極かたずして一旦かくの如し、たとへば六月の土用は極めてあつく、かたびらさへ身にかゝらねども、悪寒の病ある人は綿入を重ねても猶さむし、また極月の大寒には、きる物をかさねきて火にあたりてもあつからぬに、大発熱の病人は、はだぬぎても猶あつし、常の人にあたるあつささむさも、かの病人にあたる暑き寒さもおなじことなれども、暑寒は気に属して虚なり、悪寒発熱の病は形につきて実なる故に、虚なる暑寒の気実なる病邪にかたざる如し、此たとへにてよくよく体認あるべし、
-
『翁問答』上卷之末是を人衆ければ則ち天に勝ち、天定まれば亦た人に勝つといふなり、そのうへ五福のうちの攸好徳だにうけぬればのこりの四つは其うちにそなはれり、明徳すでにあきらかなれば、至誠無息長在不滅なり、これ無上のながいきなり、大富貴を得て小富貴をわすれぬれば、これまた無上の富貴なり、一朝のうれひ心のくるしびとならざれば、心上の康寧は事上の康寧にまさりたり、考終命の事は徳あるうへは云にをよばず、是にて福善の極意を得心すべし、
-
『翁問答』上卷之末かの病人悪寒発熱の病勢おとろへ本服しぬれば、常の人の如くに暑き寒さをおぼゆるものなり、その如く運命のいきをひおとろへて其分数極まりぬれば、必らず悪人は六極のがれ難く、善人は五福をうくるものなり、しかるゆへに盗跖は無病息災に難なくながいきして暮しぬる様なれども、おのれと六極の剛悪におちいりて、至誠無息の神理をうしなひ、万世不朽の悪名をながしぬれば、六極の報応さだかならずやまた顔子は箪瓢陋巷不幸短命なれども、五福の攸好徳をうけ、真楽の介福めでたく長在不滅の神理あきらかにして、万世きはまりなく、公爵の追贈四配の祭祀をうけ給ひぬれば、五福の嚮命あきらかならずや運命のいきおひによつて一旦見かけは福善禍淫の常にたがふやうなれども、畢竟しんじつの端的終には天命本然の常にたちかへるものなり、
-
『翁問答』上卷之末六極のうちにて悪弱の凶徳をうけぬれば、のこり四つは皆其中に備はれり、至誠無息の神理をうしなひぬれば、たとひ幸にして免れながいきしても凶短折に異ならず、欲にいたゞきなく、たゞむさぶりおしむばかりなれば、財宝ありても心は貧者なり、心くらく迷ひぬれば、目にふれ耳にきくことみなくるしびとなれば、無病にてもかたちやすからず、欲心のくるしみ常にたらざれば、憂なくても心やすからず、是にて禍淫の極意を得心すべし、五福の第四に攸好徳をとき、六極の終に悪弱をときたまふ、極意よくよく体察すべし。
-
『翁問答』上卷之末五曰考終命、これは天道の定め給ふ命のかずを皆尽して生理にしたがひて死するを云、已上この五つを五福と云なりさて又禍淫のわざはひを六極といひて六つあり、天道この六極をもて悪人をこらし給ふ、一に曰凶短折凶はあくぎやく無道にして犬死するを云短折は天道の定め給ふ命のかずよりまへかどに死するをいふ、二に曰疾、三に曰憂、四に曰貧、五に曰悪、これは自暴とてうまれつき剛強にして欲ふかく、仁孝の儒道をそしり罔し或は悪逆を好みおこなふを云、六に曰弱、これは自棄とて生れつき柔弱にして仁孝の儒道をよしとは思へども行ふ事あたはず、或は臆病にて欲ふかく、不義無道のふるまひのみ、畜生にも劣れる有様なる柔悪の人を云、以上此六つを六極と云なり、
-
『翁問答』上卷之末体充曰、天道は福善禍淫とて、善をなす人には福をあたへ、あくをなすものには禍をあたへ給ふと承はり及び候に、善人も仕合あしく、或はわざはひにあふ事あり、悪人も或は仕合よく、かへつてさいはひを得るもの多く候は、なにたる道理にておはしまし候や。師の曰、よきうたがひにて候、是も易理をよく知らざれば、弁へがたき理にて候、天道流行して造化発育したまふ、その賦与の分数を命と名く、天地の間にみちみちて、声色貌象あるもの、皆天然一定の分数あり、しかるゆへに人間一生涯のあひだ、あふところの境界、吉凶禍福一飲一食にいたるまで、悉く命にあらさるはなし、皆これ天道の流行なりといへども、此命に本末正変あり、正変に虚実の勝負あり、
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る