導師導古典を学びたいすべての人に

翁問答 / 上卷之末

夫人間の貧富貴賤壽天の分數は、皆資生のはじめ胎育十箇月の間にさだまるところなり、その胎育の間歲月日時にをのをの陰陽五行ありて、生長化收藏王相死囚老の氣綱組雜揉して造化するによつて、運命ひとしからず、そのうへに又善惡應報の感化まていりまじる故に、運命のよきところばかり揃へて生れつくるは、ならぬいきをひにて候、然るによつて、人間世のありさま、德ありて才なきもあり才ありて德なきもあり、才徳ありて貧賤なるもあり富貴にして才德なきもあり、貧賤にしてうれいなきあり、富貴にしてうれい多きあり若き時仕合よくて老ておとろふるあり、貴き位に生れていやしく成さがるあり、貧賤にしていのちながきあり、富貴にしていのち短きあり、誠にいろいろさまざまの有樣、なかなか語り盡しがたし、

新字:夫人間の貧富貴賤寿天の分数は、皆資生のはじめ胎育十箇月の間にさだまるところなり、その胎育の間歳月日時にをのをの陰陽五行ありて、生長化収蔵王相死囚老の気綱組雑揉して造化するによつて、運命ひとしからず、そのうへに又善悪応報の感化まていりまじる故に、運命のよきところばかり揃へて生れつくるは、ならぬいきをひにて候、然るによつて、人間世のありさま、徳ありて才なきもあり才ありて徳なきもあり、才徳ありて貧賤なるもあり富貴にして才徳なきもあり、貧賤にしてうれいなきあり、富貴にしてうれい多きあり若き時仕合よくて老ておとろふるあり、貴き位に生れていやしく成さがるあり、貧賤にしていのちながきあり、富貴にしていのち短きあり、誠にいろいろさまざまの有様、なかなか語り尽しがたし、

書き下し

夫人間の貧富貴賤寿天の分数は、皆資生のはじめ胎育十箇月の間にさだまるところなり、その胎育の間歳月日時にをのをの陰陽五行ありて、生長化収蔵王相死囚老の気綱組雑揉して造化するによつて、運命ひとしからず、そのうへに又善悪応報の感化まていりまじる故に、運命のよきところばかり揃へて生れつくるは、ならぬいきをひにて候、然るによつて、人間世のありさま、徳ありて才なきもあり才ありて徳なきもあり、才徳ありて貧賤なるもあり富貴にして才徳なきもあり、貧賤にしてうれいなきあり、富貴にしてうれい多きあり若き時仕合よくて老ておとろふるあり、貴き位に生れていやしく成さがるあり、貧賤にしていのちながきあり、富貴にしていのち短きあり、誠にいろいろさまざまの有様、なかなか語り尽しがたし、

現代語訳

そもそも人間の貧富・貴賤・寿夭の分数は、みな生を受けた初め、胎内で育つ十か月の間に定まるものである。その胎育の間の歳・月・日・時にはそれぞれ陰陽五行があって、生長化収蔵・旺相死囚老の気が入り組み混じり合って造化するので、運命は等しくない。そのうえにまた善悪の応報の感化まで入り混じるため、運命のよいところばかりを揃えて生まれつくことは、とてもできない勢いである。それゆえ人の世のありさまは、徳があって才のない者もあり、才があって徳のない者もあり、才徳があって貧賤な者もあり、富貴でありながら才徳のない者もある。貧賤でも憂いのない者があり、富貴でも憂いの多い者がある。若い時は運がよく老いて衰える者があり、貴い位に生まれて卑しく落ちぶれる者がある。貧賤で長生きする者があり、富貴で短命な者がある。まことにいろいろさまざまなありさまで、とても語り尽くせない。

解説

ここで藤樹は、貧富や寿命の差を運命として説明する。胎内の十か月の年月日時に陰陽五行の気が入り組むため、生まれつきの巡り合わせは人ごとに異なるという、当時の陰陽五行説にもとづく考え方である。旺相死囚老は五行の気の盛衰を表す語である。大事なのは、運命のよいところだけを揃えて生まれる者はいないという指摘だろう。徳と才、富と心の安らぎは別々に配られる。他人の恵まれた一面だけを見て自分を嘆かず、誰もが何かを欠いて生きていると知ることが、落ち着いて働く支えになる。

この章句が説くこと

運命陰陽五行命富貴貧賤天道

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る