翁問答 / 上卷之末
また才智拔群の人にも無得てなること必ずあるものなり、それを見分てえぬことにはさしつかはぬが、よろしく候、氣に入たる出頭人なれば、得たること得ざることの吟味なくまた人もなげにさしつかひ、あひくちあしければ、その人の得たることにもさしつかはざるは、みなひがことにて候、君のまへちかくさしつかふべきほどのさぶらいおば、いづれをも直にさしつかひてこそ、人がらおも心立おも見しるべけれ、たゞ人づてにいひつぎてさしつかひたる分にては、よきもあしきも知るべき樣なし、しかるゆへに出頭のものゝとりなしにのみ聞あやかるばかりなり、かやうのあやまりみな主君の心暗き迷よりおこれり、
新字:また才智抜群の人にも無得てなること必ずあるものなり、それを見分てえぬことにはさしつかはぬが、よろしく候、気に入たる出頭人なれば、得たること得ざることの吟味なくまた人もなげにさしつかひ、あひくちあしければ、その人の得たることにもさしつかはざるは、みなひがことにて候、君のまへちかくさしつかふべきほどのさぶらいおば、いづれをも直にさしつかひてこそ、人がらおも心立おも見しるべけれ、たゞ人づてにいひつぎてさしつかひたる分にては、よきもあしきも知るべき様なし、しかるゆへに出頭のものゝとりなしにのみ聞あやかるばかりなり、かやうのあやまりみな主君の心暗き迷よりおこれり、
書き下し
また才智抜群の人にも無得てなること必ずあるものなり、それを見分てえぬことにはさしつかはぬが、よろしく候、気に入たる出頭人なれば、得たること得ざることの吟味なくまた人もなげにさしつかひ、あひくちあしければ、その人の得たることにもさしつかはざるは、みなひがことにて候、君のまへちかくさしつかふべきほどのさぶらいおば、いづれをも直にさしつかひてこそ、人がらおも心立おも見しるべけれ、たゞ人づてにいひつぎてさしつかひたる分にては、よきもあしきも知るべき様なし、しかるゆへに出頭のものゝとりなしにのみ聞あやかるばかりなり、かやうのあやまりみな主君の心暗き迷よりおこれり、
現代語訳
また、才知抜群の人にも不得手なことが必ずあるものである。それを見分けて、不得手なことには使わないのがよい。気に入った出頭人(寵臣)であれば得手不得手の吟味もなく、また人もなげに使い、相性が悪ければその人の得意なことにも使わないのは、みな誤りである。主君の前近くで使うほどの侍は、誰であれ直接使ってこそ、人柄も心立ても見知ることができる。ただ人づてに言い継いで使っているだけでは、よい者も悪い者も知りようがない。だから出頭人の取りなしばかりを聞いて、それに染まるばかりになる。こうした誤りは、みな主君の心が暗い迷いから起こるのである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『翁問答』上卷之末主君の臣下をさしつかふはたとへば磁石のはりをすふが如し火はかはけるにつき、水はうるおへるにながるゝことわりなれば、磁石のくろがねならではすはざる如く、主君の心とおなじき人ならではつかひ給はぬものなり、心の暗き主君は、何程よきさぶらいをあつめおきてもそれをばもちひず、只君の心にひとしく暗きくせものばかりをさしつかひ給ふものなり、しかるゆへによきさぶらいその家中にありてもなきに同じ、主君の心あきらかなれば、その心によく叶ひたるよき士ならではさしつかひ給はぬゆへにくせものも欲にふけり悪をはぢて、いつとなくよくなるものなればあしきくせもの其家中にありても、なきに等し、臣下のよきもあしきも国のみだるゝもおさまるも、畢竟主君の心ひとつにあり、まことにこゝろざしあるべき事にて候。
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『韓非子』難二第三十七桓公曰く、「吾聞く、人に君たる者は人を索むるに労し、人を使うに佚すと。吾仲父を得ること已に難し。仲父を得るの後、何為れぞ易からざらんや。」
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孫子・作戦篇其の戦を用うるや、勝つを貴ぶ。久しければ則ち兵を鈍らせ鋭を挫き、城を攻むれば則ち力屈し、久しく師を暴せば則ち国用足らず。
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尉繚子・武議良馬も策有れば、遠道致すべし。賢士も合有れば、大道明らかにすべし。
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