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日本伝治乱要決 / 序・序・師の志と本書が示すもの

此書を盡さゞる時は、諸子百家の書を讀む共、何ぞ我朝の裨あるに足らんや、是を盡す時は、雜書といへども見るに從がひ國用ならざる事なし、況や聖老佛等の書をや、能其基立てばなり、惜ひかな百數年日本傳の書を傳るものありといへども作者の眞意に徹せず、理を臆にとつて名と實と符合せず、むなしく兵家の一書となつて唯心術戰法のみとす、嗚呼寶山に入て手を空するが如し、我師健貞剛弼好て數年書をよみひろく和漢の事跡に達し、日本傳の書によつて作者の眞意を操り、我國に於いて治亂の大道たることを悟し、國躰の矩を立、其名によつて其實を示し、初て撰者の器量をあらはす、我朝治亂の要また此書に詳なることを以て諸子に敎導す、其意温厚叮嚀、叉誰か何ぞこゝにしかん、此書の文易簡にして、文字ものを借りて意をなす、これによつて人々近く其微を得しがたし、故に此書に附して今春治亂要決を著作し、外敎をからずして治國制亂の要こゝに出ざることをしめず、我朝數千歳の上より未かくの如き書あることをきかず、嗚呼剛弼我國に功ある哉、これを以てひろく横目の民に蒙らしめ四海に補あらむことを希ふのみ、于時寶曆十三癸未春三月源興晴序

新字:此書を尽さゞる時は、諸子百家の書を読む共、何ぞ我朝の裨あるに足らんや、是を尽す時は、雑書といへども見るに従がひ国用ならざる事なし、況や聖老仏等の書をや、能其基立てばなり、惜ひかな百数年日本伝の書を伝るものありといへども作者の真意に徹せず、理を臆にとつて名と実と符合せず、むなしく兵家の一書となつて唯心術戦法のみとす、嗚呼宝山に入て手を空するが如し、我師健貞剛弼好て数年書をよみひろく和漢の事跡に達し、日本伝の書によつて作者の真意を操り、我国に於いて治乱の大道たることを悟し、国体の矩を立、其名によつて其実を示し、初て撰者の器量をあらはす、我朝治乱の要また此書に詳なることを以て諸子に教導す、其意温厚叮嚀、叉誰か何ぞこゝにしかん、此書の文易簡にして、文字ものを借りて意をなす、これによつて人々近く其微を得しがたし、故に此書に附して今春治乱要決を著作し、外教をからずして治国制乱の要こゝに出ざることをしめず、我朝数千歳の上より未かくの如き書あることをきかず、嗚呼剛弼我国に功ある哉、これを以てひろく横目の民に蒙らしめ四海に補あらむことを希ふのみ、于時宝暦十三癸未春三月源興晴序

書き下し

此書を盡さゞる時は、諸子百家の書を讀む共、何ぞ我朝の裨あるに足らんや、是を盡す時は、雜書といへども見るに從がひ國用ならざる事なし、況や聖老佛等の書をや、能其基立てばなり、惜ひかな百數年日本傳の書を傳るものありといへども作者の眞意に徹せず、理を臆にとつて名と實と符合せず、むなしく兵家の一書となつて唯心術戰法のみとす、嗚呼寶山に入て手を空するが如し、我師健貞剛弼好て數年書をよみひろく和漢の事跡に達し、日本傳の書によつて作者の眞意を操り、我國に於いて治亂の大道たることを悟し、國躰の矩を立、其名によつて其實を示し、初て撰者の器量をあらはす、我朝治亂の要また此書に詳なることを以て諸子に敎導す、其意温厚叮嚀、叉誰か何ぞこゝにしかん、此書の文易簡にして、文字ものを借りて意をなす、これによつて人々近く其微を得しがたし、故に此書に附して今春治亂要決を著作し、外敎をからずして治國制亂の要こゝに出ざることをしめず、我朝數千歳の上より未かくの如き書あることをきかず、嗚呼剛弼我國に功ある哉、これを以てひろく横目の民に蒙らしめ四海に補あらむことを希ふのみ、于時寶曆十三癸未春三月源興晴序

現代語訳

この書を尽くさないときは、諸子百家の書を読んだところで、どうしてわが朝の助けとなるに足りましょうか。これを尽くすときは、雑書であっても、見るにしたがって国の用にならないことはありません。まして聖・老・仏などの書においてはなおさらです。その基がよく立つからです。惜しいことに、百数年、日本伝の書を伝える者はいても、作者の真意に徹せず、理を憶測でとらえ、名と実とが符合せず、むなしく兵家の一書となって、ただ心術と戦法だけのものとされてきました。ああ、宝の山に入って手を空しくするようなものです。わが師の健貞剛弼は、好んで数年書を読み、広く和漢の事跡に通じ、日本伝の書によって作者の真意を探り、わが国において治乱の大道であることを悟らせ、国体の矩を立て、その名によってその実を示し、初めて撰者の器量をあらわしました。わが朝の治乱の要もまたこの書に詳しいことをもって、諸子を教え導きます。その意は温厚で丁寧であり、また誰がこれに及びましょうか。この書の文は簡素で、文字が物を借りて意を成しているため、人々は近くその微妙なところを得にくいのです。そこでこの書に付けて、今春『治亂要決』を著し、外の教えを借りずに、国を治め乱を制する要がここから出ないことはないと示しました。わが朝の数千年の昔から、まだこのような書があるとは聞きません。ああ、剛弼はわが国に功のあることよ。これによって、広く横目の民(世の人々)に及ぼし、四海の助けとなることを願うのみです。時に宝暦十三年癸未の春三月、源興晴が序します。

解説

序文の後半です。日本伝の書は百年余り伝わりながら、真意に届かず、兵法の一書に縮められてきたと嘆きます。そこで師の健貞は和漢の事跡を学んで真意を探り、治乱の大道としてこの書を著したと述べます。名と実が合わなければ宝の山に入って手ぶらで帰るという比喩は、制度や理念が形だけになる状態に通じます。管理職にとっては、理念や手順書を掲げるだけでなく、その真意を部下に分かる言葉で伝え、実行に結びつけて初めて意味が生まれると読めます。
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この章句が説くこと

『日本伝治乱要決』高山健貞序文宝暦十三年真意名と実

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