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直毘霊 / から人の説になまどわされそ

かくてその聖人どものしわざにならひて、後々の人どもゝ、よろづのことを己がさとりもておしはかりごとするぞ、彼國のくせなる、大御國の物學びせむ人、是をよく心得をりて、ゆめから人の說になまどはされそ、すべて彼國は、事每にあまりこまかに心を著て、かにかくに論ひさだむる故に、なべて人の心さかしだち惡くなりて、中々に事をしゝこらかしつゝ、いよゝ國は治まりがたくのみなりゆくめり、

新字:かくてその聖人どものしわざにならひて、後々の人どもゝ、よろづのことを己がさとりもておしはかりごとするぞ、彼国のくせなる、大御国の物学びせむ人、是をよく心得をりて、ゆめから人の説になまどはされそ、すべて彼国は、事毎にあまりこまかに心を著て、かにかくに論ひさだむる故に、なべて人の心さかしだち悪くなりて、中々に事をしゝこらかしつゝ、いよゝ国は治まりがたくのみなりゆくめり、

書き下し

かくてその聖人どものしわざに習いて、後々の人どもも、万の事を己が悟りもて推し量りごとするぞ、彼の国の癖なる。大御国の物学びせむ人、是をよく心得おりて、ゆめから人の説になまどわされそ。すべて彼の国は、事毎にあまり細かに心を着けて、かにかくに論い定むる故に、なべて人の心さかしだち悪しくなりて、なかなかに事をししこらかしつつ、いよよ国は治まりがたくのみなりゆくめり。

現代語訳

こうしてその聖人たちのやり方にならって、後々の人々も、あらゆることを自分の理解で推し量って決めつけるのが、あの国の癖である。大御国(日本)で学問をしようとする人は、このことをよく心得ていて、決して唐人(中国の人)の説に惑わされてはならない。総じてあの国は、事あるごとにあまりに細かく気を配り、あれこれと論じて定めるので、おしなべて人の心が小賢しく悪くなり、かえって物事をこじらせながら、ますます国は治まりにくくなるばかりのようである。

解説

ここで宣長は、自分の悟りで万事を推し量る態度を中国の「くせ」と名指しし、日本で学問をする者に「から人の説になまどわされそ」と戒める。宣長が生涯をかけて退けた「漢意(からごころ)」の要点がよく表れた一節である。漢意とは単に中国の書物を読むことではなく、理屈で物事を割り切り、何でも論じ定めずにはいられない心の癖を指す。細かく論じるほど人の心は賢しらになり、事をこじらせ、国はかえって治まらなくなる、と彼は見る。宣長は『玉勝間』でも、漢籍を読まない人にさえこの心が染みついていると述べている。物事を細かく規定し論じ尽くすことが、かえって事態をこじらせた経験はないだろうか。

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