直毘霊 / 国を乱すたね
されば聖人の道は、國を治めむために作りて、かへりて國を亂すたねともなる物ぞ。すべて何わざも、大らかにして事足ぬることは、さてあるこそよけれ。
新字:されば聖人の道は、国を治めむために作りて、かへりて国を乱すたねともなる物ぞ。すべて何わざも、大らかにして事足ぬることは、さてあるこそよけれ。
書き下し
されば聖人の道は、国を治めむために作りて、かえりて国を乱すたねともなる物ぞ。すべて何わざも、大らかにして事足りぬることは、さてあるこそよけれ。
現代語訳
だから聖人の道は、国を治めるために作られながら、かえって国を乱す種にもなるものである。すべて何事も、大らかにしておいて用が足りるのであれば、そのままにしておくのがよいのだ。
解説
治めるために作った制度が、かえって乱れの種になる。宣長はその機序を前段で説明している。中国は物事ごとにあまりに細かく心を配り、あれこれ論じて定めるから、人の心が小賢しく悪くなり、かえって事をこじらせて、ますます治まらなくなる、と。制度を細かくするほど、それをかいくぐる知恵も細かくなるという指摘である。だから処方は「大らかにして事足りぬることは、さてあるこそよけれ」——用が足りているなら、そのままにしておけ。規則を足す前に、足さずに済むかを問えという、実務的な一句として読める。
この章句が説くこと
国を乱すたね大らかにして事足るしこらかす規則を足す前に
関連する章句
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『直毘霊』直く清かりし心いともめでたき大御国の道をおきながら、他国のさかしく言痛き意行をよきこととして、ならい学べるから、直く清かりし心も行いも、みな穢く悪くまがりゆきて、後ついには、かの他国のきびしき道ならずては、治まりがたきが如くなれるぞかし。さる後のありさまを見て、聖人の道ならずては、国は治まりがたき物ぞと思うめるは、しか治まりがたくなりぬるは、もと聖人の道の弊なることを、え悟らぬなり。
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『直毘霊』二つには過ぎずさて其の聖人どもの作りかまえて、定めおきつることをなも、道とはいうなる。かかれば、唐国にして道という物も、其の旨をきわむれば、ただ人の国を奪わむがためと、人に奪わるまじきかまえとの、二つには過ぎずなもある。
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『直毘霊』乱れたる世には名将多く出づなる。たとえば乱れたる世には、戦に習う故に、おのずから名将多く出で来るが如く、国の風俗悪しくして、治まりがたきを、あながちに治めむとするから、世々にその術をさまざま思い巡らし、為習いたる故に、しか賢き人どもも出で来つるなりけり。然るをこの聖人というものは、神の如く、よに優れて、おのずからに奇しき徳あるものと思うは、僻事なり。
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『直毘霊』儒者どものさえずりぐさもとよりしか穢悪き心もて作りて、人を欺く道なるけにや、後の人も、上辺こそ尊み従いがおにもてなすめれど、まことには一人も守り勤むる人なければ、国の助けとなることもなく、その名のみ広ごりて、ついに世に行わるることなくて、聖人の道は、ただいたずらに人をそしる世々の儒者どもの、さえずりぐさとぞなれりける。然るに儒者の、ただ六経などいう書をのみ捕らえて、彼の国をしも、道正しき国ぞと、言いののしるは、いたく違えることなり。
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『直毘霊』道を作りて正すはかく道ということを作りて正すは、もと道の正しからぬが故のわざなるを、かえりてたけきことに思い言うこそ痴なれ。そも後の人、此の道のままに行わばこそあらめ。さる人は、よよに一人だに有りがたきことは、かの国の世々の史どもを見ても、しるき物をや。
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『直毘霊』もろこしには聖人とぞ云ふなる其が中に、威力あり智り深くて、人をなづけ、人の国を奪い取りて、又人にうばわるまじき事量をよくして、しばし国をよく治めて、後の法ともなしたる人を、もろこしには聖人とぞ云うなる。

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